.表紙 女の決闘 万里と魔法の靴 烏野 博史 .人物 【課題】女の決闘 【作】烏野博史 【タイトル】万理と魔法の靴 【一行テーマ】 才能を決め込まず、自分の力を信じよう。 【三行ストーリー】 踊りが武器の未熟な女優の万里が、靴屋の山本の助けを借りて、劇団の看板女優である麗子を認めさせる実力を手に入れる。 【人 物】 三原万里(25)劇団三城・舞台女優 山本孝太郎(28)山本靴店・靴職人 四条麗子(28)劇団三城・舞台女優 山本千吉(75)山本靴店・店主 吾川《あがわ》幸多(45)演出家 子供 観客達、団員達、人々 ※青い鳥 兄妹が夢の中で過去や未来の国に幸福の象徴の青い鳥を探しに行く童話劇。 .脚本 |
1P | ①三季劇場・前 |
2 | 行き交う楽しげな観客達。 |
3 | 階段を上っている山本孝太郎(28)。 |
4 | 三季劇場正面口に入る孝太郎。 |
5 | 壁には〝三季劇場〟の文字のオブジェ。 |
6 | |
7 | ②同・観客席 |
8 | 最前列の席で舞台を見ている孝太郎。 |
9 | 舞台上で演じている四条麗子(28)と |
10 | 団員達。 |
2P | 舞台の中央にたって嘆いている麗子。 |
2 | 麗子「ああ、なんて日なの・・・・・・」 |
3 | 疲れて頬杖をつく孝太郎。 |
4 | 三原万里(25)が舞台袖から中央へ走 |
5 | ってくる。万理の足元には青い靴。上 |
6 | 半身に行くほど赤い炎の化身のような |
7 | ドレス姿の万理。 |
8 | 大きく舞台の床を踏み鳴らす万理。 |
9 | 孝太郎、顔をあげる。 |
10 | 万里の足下の青い靴が見える。 |
3P | くるりと回る万里、フラメンコを踊る。 |
2 | 麗子の声「(怒りに震え)来る日も来る日も |
3 | 嫌味、嫌味、嫌味あのにっくき女めーー」 |
4 | 万里の踊りは、どんどん迫力を増す。 |
5 | 目を見張る孝太郎。 |
6 | 舞台の袖に駆け戻る万里。 |
7 | 舞台袖をみている孝太郎。 |
8 | |
9 | ③同・廊下 |
10 | 廊下を歩いている孝太郎。 |
4P | 廊下の先の十字路で衣装のままの万里 |
2 | が急ぎ足であたりを伺いながら横切る。 |
3 | 万里のいた十字路にさしかかる孝太郎。 |
4 | 人気のない廊下、非常口がある。 |
5 | 孝太郎、非常口のドアに手をかける。 |
6 | |
7 | ④同・非常階段 |
8 | 薄暗い螺旋階段の途中に腰掛ける万里。 |
9 | 床を二度を踏み鳴らす万里。万里の青 |
10 | い靴から青い光の粒が出る。 |
5P | ドアから顔をのぞかせる孝太郎。 |
2 | あたりに舞っている青い光の粒。 |
3 | 光の粒は万里の足下に収束していき、 |
4 | 青い靴は形状・色・質感が変化して赤 |
5 | い皮靴になる。 |
6 | 立ち上がる万理。パンフレットが床に |
7 | 落ちる音で、はっと顔を上げる万理。 |
8 | 呆然と立っている孝太郎。 |
9 | 孝太郎「え・・・・・・と」 |
10 | 万里「ーーし、失礼します」 |
6P | 万里は急いで、孝太郎を横切る。 |
2 | 孝太郎「あ、ちょっと!」 |
3 | 非常口のドアをくぐる万里。 |
4 | |
5 | ⑤山本靴店・前(夕) |
6 | 街路樹の豊かな坂道。坂道の途中にあ |
7 | るアンティーク調の山本靴店。ショー |
8 | ウィンドウには革靴が並べられている。 |
9 | 〝山本靴店〟の看板。 |
10 | |
7P | ⑥同・店内(夕) |
2 | 壁の一角の額の中、皮靴を履いた女優 |
3 | のポスター。壁に並べられてあるサン |
4 | プルの靴。エプロン姿の山本千吉(75 |
5 | )が奥の作業場で靴を作っている。 |
6 | レジの前に立っている麗子。麗子は華 |
7 | やかな服装。レジの奥に立っているエ |
8 | プロン姿の孝太郎。 |
9 | 孝太郎のほうに身をのりだす麗子。 |
10 | 麗子「どうだった?」 |
8P | 後ずさる孝太郎。 |
2 | 孝太郎「あぁ、良かったよ」 |
3 | 麗子「それだけ」 |
4 | 孝太郎「……踊り子がすごく良かった」 |
5 | 麗子、つまらなそうに頬杖をつく。 |
6 | 麗子「買うのをやめようかな」 |
7 | 孝太郎「それは、ちょっと・・・・・・」 |
8 | 麗子「冗談よ。何のために通ってると思って |
9 | んの?」 |
10 | 孝太郎、パイプ椅子を持ってきて麗子 |
9P | の前に置く。麗子、パイプ椅子に座り、 |
2 | 片方の足を木型をとる用途の台に置く。 |
3 | 壁の額を見る麗子。 |
4 | 額には皮靴を履いた女優のポスター。 |
5 | 麗子「私にとってのあなたはおばあちゃんに |
6 | とっての千吉さんみたいになるの」 |
7 | 孝太郎、ため息をつく。 |
8 | 麗子、嬉しそうにほほえむ。 |
9 | 孝太郎「どのような品が、ご入り用ですか?」 |
10 | 麗子「私の足にぴったりなじむ靴が欲しいわ。 |
10P | もっとキレのある動きが欲しいの」 |
2 | 孝太郎「あいあい……踊ってた子、変わった |
3 | 靴を履いてなかった?」 |
4 | 麗子「あぁ万里ね。変わった靴? 知らない」 |
5 | 孝太郎「・・・・・・そうか」 |
6 | 孝太郎、鉛筆で麗子の足の型をとる。 |
7 | |
8 | ⑦三城劇場・稽古場・前(朝) |
9 | 練習着に眼鏡姿、鞄を肩にかけた万里 |
10 | が稽古場に入る。 |
11P | 〝稽古場〟の表札。 |
2 | |
3 | ⑧同・稽古場(朝) |
4 | 稽古場に入る万里。 |
5 | 麗子と団員達が柔軟体操をしている。 |
6 | 万里、麗子に歩みよる。 |
7 | 万里「お、おはようございます」 |
8 | 麗子「おはよう。この前の踊り、よかったわ」 |
9 | 万里「ありがとうございます。」 |
10 | 吾川《あがわ》幸多(45)が入ってくる。 |
12P | 吾川「おはようございます。次の公演の配役 |
2 | 決定は近いです。どの役者にも主役の可能性 |
3 | があります。気を引き締めてください!」 |
4 | 相づちをうつ役者達。 |
5 | 万里「はい!」 |
6 | 真剣な顔の万里を怪訝そうに見る麗子。 |
7 | 壁時計は16時を指す。 |
8 | 各々のタオルや水筒を自分の鞄に直し |
9 | ている万里と麗子。麗子、万里の見て |
10 | いる台本を伺い見る。 |
13P | 台詞部分に附箋が貼られていたり書き |
2 | 込みがされている万里の台本。 |
3 | 麗子「あなた、俳優志望なのね」 |
4 | 万里「あの、私の演技はどうですか?」 |
5 | 麗子「たまに変な顔してない? 気持ち悪い」 |
6 | 万里「・・・・・・はい」 |
7 | 麗子「やめときなさい。舞台の上でまずい演 |
8 | 技をすれば、うちの評判が悪くなる」 |
9 | 万里、しゅんとなる。 |
10 | 麗子「踊りは劇団に貢献していると思うわ!」 |
14P | 万里「ありがとうございます……」 |
2 | 麗子「もう。はっきりしないの嫌いなの!」 |
3 | 万里「はい! ・・・・・・い、いえ!」 |
4 | 麗子、ため息をつく。 |
5 | |
6 | ⑨大絹川・大絹橋(夕) |
7 | 広い河川敷を持つ大絹川。 |
8 | 自転車に乗っている万里。 |
9 | 〝二級河川 大絹川〟の看板。 |
10 | |
15P | ⑩同・河川敷(夕) |
2 | 河川敷は広く。ちょっとしたベンチや |
3 | 花壇や遊具があり、人々は犬の散歩や |
4 | ランニングをしている。 |
5 | 自転車を降りる万里。 |
6 | 万里の側に人は通っておらず、石垣で |
7 | 作られた舞台がある。 |
8 | ベンチに鞄をおき、石造りの舞台にあ |
9 | がる万里。 |
10 | 万里「(発声練習)」 |
16P | 孝太郎の声「あれ!? もしかして!?」 |
2 | 声のほうを見上げる万里。 |
3 | 大絹橋から身を乗り出している孝太郎。 |
4 | 不審そうな顔をする万里、あたりを見 |
5 | 回して、おなかに手をあてる万里。 |
6 | 万里「(発声練習続き)」 |
7 | 孝太郎「劇団三季の女優さんでしょ!」 |
8 | 河川敷に降りてくる孝太郎。 |
9 | 万里「……どこかで会いました?」 |
10 | 孝太郎「ほら……非常階段で! こう靴が光 |
17P | ってなかった?」 |
2 | 万里、孝太郎を見張る。 |
3 | 孝太郎、万里を拝む。 |
4 | 孝太郎「あの靴、見せて!」 |
5 | 万里「うるさいな! 今、練習中! です」 |
6 | ため息をついて、ベンチに座る孝太郎。 |
7 | 孝太郎「・・・・・・君さ。あれだけ踊れる |
8 | のに、まだ練習がいるの?」 |
9 | 万里「・・・・・・別に、うちの劇団はミュ |
10 | ージカルなので演技が下手ても、踊りや歌の |
18P | うまい人は雇うの。それだけ」 |
2 | 孝太郎「四条麗子さんって知ってる? うち |
3 | の靴屋の常連なんだけど、えらく誉めてた」 |
4 | 万里、ばっと孝太郎を見る。 |
5 | 万里「何を?」 |
6 | 笑う孝太郎、万里に名刺を差し出す。 |
7 | 孝太郎「じゃぁ、またウチの店に来た時に話 |
8 | そう。」 |
9 | 名刺を見る万里、真剣な顔。 |
10 | |
19P | ⑪山本靴店・前 |
2 | 蝉の声。鞄を持って、ドアの前に立っ |
3 | ている万里。万里はショーウィンドウ |
4 | から店内をのぞき込む。 |
5 | 奥にエプロン姿の孝太郎が見える。 |
6 | 真剣な顔の万理、そっとドアを開く。 |
7 | |
8 | ⑫同・店内 |
9 | 鈴が鳴る。奥の孝太郎がドアのほうを |
10 | のぞき込む。 |
20P | 居心地悪そうに立ち尽くす万里。 |
2 | 万里を見ながら、腰をあげる孝太郎。 |
3 | 万里、壁の靴のほうに視線をそらす。 |
4 | 孝太郎「(叫び声)」 |
5 | 万里「はい!」 |
6 | 孝太郎「来てくれたんですね」 |
7 | 万里に歩み寄る孝太郎。 |
8 | 後ずさる万里。 |
9 | 万里「・・・・・・はぁ」 |
10 | 孝太郎「どうですか? うちの店は。と言っ |
21P | てもじいさんの店なんですが」 |
2 | 万里は壁の棚の靴を手にとる。 |
3 | 値札、10万円。靴代6万円、木型台4 |
4 | 万円。 |
5 | 万里「ーーじっ! (十万円!?)」 |
6 | だした手をひっこめる万里。 |
7 | 孝太郎「靴、持ってきてくれましたか?」 |
8 | 万里、うなづく。 |
9 | 孝太郎「奥で話そう」 |
10 | コーヒーを二つ作業机に置く孝太郎。 |
22P | パイプ椅子に座っている万里。パイプ |
2 | 椅子に座る孝太郎。作業机に魔法の靴 |
3 | を置く万里。 |
4 | 孝太郎「おぉ、これが」 |
5 | 浮かない顔の万里。 |
6 | 机の上の虫眼鏡で靴を見る孝太郎。 |
7 | 万里「あの、麗子さん、何て言ってました?」 |
8 | 孝太郎「うーん・・・・・・」 |
9 | 万里、うなだれる。 |
10 | 孝太郎「君は大丈夫だよ」 |
23P | 万里「何で?」 |
2 | 孝太郎「一生懸命だから」 |
3 | 万里「そんなの、うまくいかない」 |
4 | 孝太郎「うまくやりたいの?」 |
5 | 万里、ため息をつく |
6 | 孝太郎「大丈夫だよ。君がうまくできないと |
7 | 思っていても、案外見てるほうは違うかも」 |
8 | 万里、顔をあげる。 |
9 | 万里「そうでしょうか?」 |
10 | 孝太郎「わからない」 |
24P | 万里「もう、なにですかそれ!」 |
2 | 万里と孝太郎、笑う。 |
3 | 孝太郎「靴を作っていても、無理難題をつき |
4 | つけてくる客はいてね、できる事しかできな |
5 | いんだって。どうにもならない時には手の平 |
6 | に人と書いてだなーー」 |
7 | 万里と孝太郎、笑いあう。 |
8 | |
9 | ⑬三城劇場・前 |
10 | |
25P | ⑭同・稽古場 |
2 | 吾川と向き合っている万里と麗子と劇 |
3 | 団員達。万里と麗子と劇団員は練習着 |
4 | を着ており整列している。吾川の手に |
5 | はバインダー。 |
6 | 吾川「それでは次の公演の配役を発表します。 |
7 | 名前を呼ばれたら前に一歩出るように!」 |
8 | バインダーを見る吾川。 |
9 | 吾川「主役、チルチル、四条麗子!」 |
10 | 麗子、前に出る。 |
26P | 吾川「妹、ミチル、三原万里!」 |
2 | 万里、挙動不審に変な顔をする。 |
3 | 吾川「どうした? しっかりしないと、他の |
4 | 団員と交代だぞ! リハーサルまでに二人は |
5 | よく練習するように!」 |
6 | 万理「はい!」 |
7 | 麗子、会釈する。 |
8 | 小さくガッツポーズをとる万里。 |
9 | 吾川「それから、お母さんチルーー」 |
10 | 壁の掛け時計は18時を指している。 |
27P | 各々帰り支度をしている団員達。 |
2 | 帰り支度をする万里と麗子。 |
3 | 麗子「吾川さん、よくあなたを選んだわね。 |
4 | 審査で何かした?」 |
5 | 万里は右手を握りしめる。 |
6 | 万里「それは・・・・・・いえ、何も」 |
7 | 麗子「まぁ、決まったんだしがんばろう」 |
8 | 麗子、歩き去る。 |
9 | 万里、右手を開く。 |
10 | 手の平には〝人〟と書いている。 |
28P | ほほえむ万里。 |
2 | 鞄を持ち、いそいそと部屋を出る万里。 |
3 | |
4 | ⑮山本靴店・前(夜) |
5 | 坂道を大股で歩く万里。ショーウィン |
6 | ドウからは黄色く暖かい光が漏れてい |
7 | る。胸に手をあてて店内を覗く万理。 |
8 | 孝太郎が接客しているのが見える。 |
9 | ほころびる万里の顔。 |
10 | |
29P | ⑯同・店内(夜) |
2 | 鞄を片手に扉を開く万里。 |
3 | レジの奥に立っている孝太郎、万里を |
4 | 見る。 |
5 | 孝太郎「おう。いらっしゃい」 |
6 | 万里、嬉しそうにレジのほうに歩く。 |
7 | レジの前に立っている麗子が振り返る。 |
8 | 驚いて立ち止まる万里。 |
9 | 万里「・・・・・・」 |
10 | 麗子「……あら?」 |
30P | 万里「あ・・・・・・と、こんばんわ」 |
2 | 麗子「こんばんわ」 |
3 | 孝太郎「うん。こんばんわ」 |
4 | 孝太郎を見る麗子。 |
5 | 麗子「どういう事?」 |
6 | 孝太郎「えっ? 何が?」 |
7 | 麗子「万里とどういう関係?」 |
8 | 孝太郎「お互いの靴を見せ合う関係だよ、ね」 |
9 | 万里、うなづく。 |
10 | 麗子「ふざけないで!」 |
31P | 孝太郎「いや、そう言われても、ね」 |
2 | 万里、うなづく。 |
3 | 麗子「本当にそれだけ」 |
4 | 目をそらす孝太郎。 |
5 | 眉をひそめる麗子。 |
6 | 孝太郎「そんなのどうでも良いだろ!」 |
7 | 万里「あっ、本当に配役の審査の時に貴重な |
8 | アドバイスをいたただいたので、お礼に来た |
9 | だけですので、私はもう帰ります!」 |
10 | 麗子「え?」 |
32P | 万里、きびすを返す。 |
2 | 麗子「万里」 |
3 | 万里「はい」 |
4 | 麗子「やる気はあるのね」 |
5 | 万里「・・・・・・はい」 |
6 | 万里と麗子、見つめ合う。 |
7 | 麗子「うまくできなければ、吾川さんに交代 |
8 | をすすめるから」 |
9 | 孝太郎「ーーおい」 |
10 | 万里「はい」 |
33P | 万里、勢いよく出て行く。 |
2 | |
3 | ⑰丸安マンション・前(朝) |
4 | 〝三原〟の表札 |
5 | |
6 | ⑱同・万里の部屋(朝) |
7 | 簡素な部屋。床にはダンベルと鞄。壁 |
8 | には大きな鏡。鏡を見ているパジャマ |
9 | 姿の万里。鏡が万里の顔を順番に映す。 |
10 | 泣いた顔の万里、浮かない顔の万里、 |
34P | 笑った顔の万里、浮かない顔の万里。 |
2 | ため息をつく万里、指で手のひらに人 |
3 | と書いて飲み込むそぶりをする。 |
4 | 鞄から台本を取り出す万里。 |
5 | 万里の鞄の中に靴が見える。 |
6 | パジャマを着替える万里。 |
7 | 万里、鞄を持って部屋から出て行く。 |
8 | |
9 | ⑲山本靴店・前 |
10 | 万里は鞄を持って山本靴店に入る。 |
35P | |
2 | ⑳同・店内 |
3 | 山本靴店に入る万里。 |
4 | 麗子と孝太郎がいる。 |
5 | 麗子、孝太郎を見る。 |
6 | 麗子「好きなの」 |
7 | 孝太郎「何だよ・・・・・・急に」 |
8 | 鞄を落とす万里。鞄の中には赤い靴。 |
9 | 音のほうを見る孝太郎。 |
10 | 立ち尽くしている万里。 |
36P | 孝太郎「あぁ、いらっしゃい」 |
2 | 麗子「ちょっと!」 |
3 | 孝太郎の手に腕を絡める麗子。 |
4 | 孝太郎「いやぁ、麗子。今日はちょっとおか |
5 | しいんだよ」 |
6 | 麗子の笑顔が消え、万里を見る。 |
7 | 麗子から目をそらす万里。 |
8 | 万里「そうですか。あっ、私、帰りますね」 |
9 | 孝太郎「えっ、今来たばかりじゃーー」 |
10 | 万里、ドアから出て行く。 |
37P | 孝太郎「おい!」 |
2 | 孝太郎、急いで店先に出る。 |
3 | 麗子、万里の鞄に視線を落とす。 |
4 | 孝太郎、帰ってくる。 |
5 | 孝太郎「おまえ・・・・・・何の冗談だよ」 |
6 | かがみ込む麗子。 |
7 | 麗子「これは?」 |
8 | 孝太郎「あぁ、例の良い靴だから研究させて |
9 | もらってたんだよ。どうしようかな・・・・ |
10 | ・・」 |
38P | 孝太郎、頭をかく。 |
2 | 麗子「届けてあげる」 |
3 | 孝太郎「良いよ」 |
4 | 麗子「任せなさいって。今日は帰るわ。その |
5 | 代わり、さっきの。今度、返事を聞かせて」 |
6 | 麗子、鞄を持って出て行く。 |
7 | 孝太郎、ため息をつく。 |
8 | |
9 | ○21三季劇場・前 |
10 | T、リハーサル日。 |
39P | 吾川の声「何やってんだ!」 |
2 | |
3 | ○22同・稽古場 |
4 | 舞台と同じような配置についている万 |
5 | 里と麗子と団員達。 |
6 | パイプ椅子に座っている吾川。 |
7 | 吾川「そこは君が得意な踊りだろ!」 |
8 | 練習着の万里が床に倒れている。 |
9 | 万里「は、はい!」 |
10 | 急いで起きあがる万里。 |
40P | 眉をひそめる麗子。 |
2 | 吾川「もういい。麗子君。変わってやれ!」 |
3 | 麗子、華麗に踊る。 |
4 | 麗子「大丈夫だよ。ミチル」 |
5 | 万里「お兄ちゃん。私やっぱり怖いわ」 |
6 | 恐怖に満ちた顔の万里。 |
7 | 麗子、眉をひそめる。 |
8 | |
9 | ○23同・非常階段(夕) |
10 | 麗子が万里の手を引いて入ってくる。 |
41P | 麗子が足を二回踏み鳴らす麗子の靴が |
2 | 赤い皮靴にかわる。 |
3 | 麗子「確かに良い靴ね。不思議ね」 |
4 | 万里「・・・・・・」 |
5 | 麗子「どうなっているんだか、すごくステッ |
6 | プを踏みやすい」 |
7 | 万里「・・・・・・」 |
8 | 麗子「でも、がっかりだわ。あなたのダンス |
9 | はすごいと思っていたから・・・・・・」 |
10 | 万里、唇をかみしめてうなだれる。 |
42P | ため息をつき非常口から出て行く麗子。 |
2 | うなだれる万里。 |
3 | |
4 | ○24大絹川・河川敷(夕) |
5 | 水面にうつる夕日。河川敷の欄干にも |
6 | たれかかる万里。そばの自転車のかご |
7 | の中の鞄にはグシャグシャの台本が突 |
8 | っ込まれている。万里、むせび泣く。 |
9 | 孝太郎の声「あぁ、ここにいた!」 |
10 | 涙をふき振り返る万里。 |
43P | 自転車の側に孝太郎が立っている。 |
2 | 万里と孝太郎、並んでベンチに座る。 |
3 | 孝太郎「えっ、麗子、まだ返してないの。そ |
4 | んな奴じゃないんだけど」 |
5 | 万里、眉をひそめる。 |
6 | 万里「麗子さんと付き合い長いんですか?」 |
7 | 孝太郎「あぁ、幼なじみ。何か言われた?」 |
8 | 万里「がっかりさせちゃいました」 |
9 | 孝太郎「あいつも演劇一筋だからね。芝居が |
10 | うまくなかったのに」 |
44P | 万里「うまくなかったんですか?」 |
2 | 孝太郎「(笑い)やたら演技が濃いし」 |
3 | 万里「すごい・・・・・・私はあの靴がない |
4 | と駄目」 |
5 | 孝太郎、万里を伺いみる。 |
6 | 孝太郎「よし、代わりに俺が靴を作ってやる」 |
7 | 万里「いや買わないですって!」 |
8 | 孝太郎「良いから……欲しいのは演技力か?」 |
9 | 両手をこすり合わせる孝太郎。 |
10 | 万里「・・・・・・私は、人前でも動じない |
45P | 心が欲しい、それに滑舌をよくしたい。」 |
2 | 孝太郎「うまく踊る能力も加えておこう。」 |
3 | 手のひらに乗っている靴を万里に見せ |
4 | る素振りをする。空想の靴を持ったま |
5 | ま、万里の足下にかがみ込む孝太郎、 |
6 | 万里の靴を脱がす。 |
7 | 万里「ちょっ!」 |
8 | 万里、目を見開く。 |
9 | 夕日に照らされて孝太郎の手には本当 |
10 | に靴があるように見える。 |
46P | 万里「・・・・・・びっくりした時に変な顔 |
2 | になるのを直したい!」 |
3 | 孝太郎「アイアイサー」 |
4 | 万里の両足に靴を履かせる素振りをす |
5 | る孝太郎、床に万里の足を置く。 |
6 | 孝太郎「どうだ?」 |
7 | 真剣な顔でじっと足下を見る万里、口 |
8 | を引き結び勢いよく立ち上がる。 |
9 | 万里「孝太郎さん・・・・・・がんばってみ |
10 | る」 |
47P | 孝太郎「ん」 |
2 | じっと孝太郎を見る。 |
3 | 頬を赤らめ、目をそらす孝太郎。 |
4 | |
5 | ○25三季劇場・前 |
6 | 入り口に向かって歩いている観客達。 |
7 | T、〝青い鳥〟公演当日。 |
8 | 壁のポスターには〝青い鳥〟の文字。 |
9 | |
10 | ○26同・廊下 |
48P | 本番姿の団員達、各々ストレッチや発 |
2 | 声練習などをしている。ミチルの服装 |
3 | を着て廊下を歩いている万里。 |
4 | チルチルの衣装を着た麗子が廊下の向 |
5 | こう側から歩いてくる。麗子は紙袋を |
6 | 持っている。 |
7 | 万里と麗子、向かい合い立ち止まる。 |
8 | 麗子「はい。これ返すわ」 |
9 | 万里、麗子から紙袋を受け取る。 |
10 | じっと麗子を見る万里。 |
49P | 万里「・・・・・・履きません」 |
2 | 麗子「舞台をなめてんの?」 |
3 | 万里「なめてません。」 |
4 | 麗子「・・・・・・完璧にできるのね」 |
5 | 万里、うつむく。 |
6 | 万里「そうなるようにがんばります」 |
7 | 眉をひそめる麗子、ため息をつく。 |
8 | 麗子「孝太郎に泣きついたそうね。そんなこ |
9 | としたって孝太郎は・・・・・・」 |
10 | 万里「ーー麗子さんには負けません」 |
50P | 真剣な顔で麗子を見る万里。 |
2 | 怖い顔で万里をにらみつける麗子。 |
3 | 麗子「・・・・・・さ、もう始まるわ」 |
4 | 万里と麗子、並んで舞台のほうに歩く。 |
5 | |
6 | ○27同・観客席 |
7 | エプロン姿の孝太郎が入ってくる。 |
8 | 観客達は親子連れが多い。 |
9 | 麗子の声「なつかしいな元の家だ」 |
10 | 人をぬい、席に座る孝太郎。 |
51P | 万里の声「一年ぶりね」 |
2 | 興味深そうに舞台に熱中している子供。 |
3 | 麗子の声「そうだ。僕たちは帰ってきたんだ」 |
4 | 舞台を見る孝太郎。 |
5 | |
6 | ○28同・舞台 |
7 | 舞台には台所とベッドに暖炉など木こ |
8 | りの家のセット。台所の机の下には犬 |
9 | と猫、鳥かごには青い鳥の置物がある。 |
10 | ベッドの上で顔を見合わせているパジ |
52P | ャマ姿の万里と麗子。仁王立ちをして |
2 | いる母親役。呆然として頭を掻いてい |
3 | る父親役。 |
4 | ベッドから飛び出す万里と麗子。 |
5 | 母親役「もうどうしちゃったの!」 |
6 | 暖炉を見る麗子。 |
7 | 麗子「火の奴、メラメラ言ってるぞミチル」 |
8 | 深呼吸をする万里、水道管に耳をそば |
9 | だてる。 |
10 | 麗子「ミチル?」 |
53P | 麗子、目を見開く。 |
2 | 万里「・・・・・・ぽつぽつ言ってる。ほら |
3 | 目を閉じて、水よ!」 |
4 | 麗子、ほほえみ目をとじる。 |
5 | |
6 | ○29(麗子のイメージ)木こりの家 |
7 | 湖畔の木こりの家の前に立っている万 |
8 | 里と麗子。 |
9 | 麗子と万里、顔を見合わせる。 |
10 | 麗子「本当だ! 水だ!」 |
54P | 万里「もう、何て言ってるのかわからない」 |
2 | 麗子「うん。きっと、火も水も砂糖もパンも |
3 | 皆、うまくやってるよ! 幸せだ!」 |
4 | 万里「うん! 幸せ! あっ!」 |
5 | 万里が指さす。木々の間から青い鳥が |
6 | 飛び去るのが見える。 |
7 | 麗子「あぁ、逃げちゃった」 |
8 | 万里にほほえみかける麗子。 |
9 | 幸せそうにほほえんでいる万里。 |
10 | 万里と麗子は白い光に包まれる。 |
55P | 拍手喝采。 |
2 | |
3 | ○30同・ロビー(夕) |
4 | 観客の行き交うロビー。出口に向かっ |
5 | て歩いている孝太郎。服を着替えた麗 |
6 | 子、孝太郎に歩み寄る。 |
7 | 麗子「孝太郎!」 |
8 | 孝太郎「おう。麗子。良かったぞ!」 |
9 | 麗子「ありがとう」 |
10 | 孝太郎「ちょっと良いか……」 |
56P | 麗子、居直る。 |
2 | 孝太郎「この前の話だけど・・・・・・ごめ |
3 | ん」 |
4 | 孝太郎、麗子に頭を下げる。 |
5 | 少し驚いた顔の麗子。 |
6 | 麗子「あの子が好きなの?」 |
7 | 孝太郎「……うん。」 |
8 | 麗子「そう。後で気が変わっても遅いから」 |
9 | 麗子、ほほえむ。 |
10 | 孝太郎「うん……お?」 |
57P | 孝太郎、手をあげる。 |
2 | 服を着替えた万里、歩いてくる。 |
3 | 孝太郎「ミチル! よかったよ」 |
4 | 万里「ありがとうございます!」 |
5 | 麗子「万里っ!」 |
6 | 万里「はい」 |
7 | 万里、姿勢をただし、おそるおそる麗 |
8 | 子を見る万里。深刻な面もちの麗子。 |
9 | 麗子「今日の舞台、よかったわ」 |
10 | 万里「あ、ありがとうございます!」 |
58P | 麗子「じゃ、私はこれで」 |
2 | 麗子、振り返らず歩み去る。 |
3 | 手を振る孝太郎。 |
4 | 怪訝な様子で孝太郎を見る万里。 |
5 | |
6 | ○31道(夕) |
7 | 万里と孝太郎が並んで歩いている。 |
8 | 万里の足には魔法の靴。 |
9 | 孝太郎「返してもらったんだ」 |
10 | 万里「はい」 |
59P | 孝太郎「演技もうまかったと思うけど、これ |
2 | からどうするの?」 |
3 | 万里は地面を二度踏みならし、ステッ |
4 | プを踏むと孝太郎のほうを向く。ほの |
5 | かに光る靴。 |
6 | 万里「どちらも、演技にも自信も持てたし、 |
7 | 持ち味の踊りものばしていきたい」 |
8 | 夕日が万里を照らす。 |
9 | 頷き、うつむく孝太郎。 |
10 | 孝太郎をのぞき込む万里。 |
60P | 孝太郎「あの、三原万里さん。良ければ、俺 |
2 | の彼女になってもらえませんか!」 |
3 | 万里「えっ、‥‥…麗子さんは!?」 |
4 | 孝太郎「あっ、断った! 断ったんだ!」 |
5 | 万里「そ、そうですか・・・・・・」 |
6 | 頬を赤らめ惚ける万里、うなずく。 |
7 | 万里「はい」 |
8 | 万里、嬉しそうにほほえむ。 |
9 | 孝太郎「おっしゃー! あぁ、よかったびっ |
10 | くりした。無理かとーー」 |
61P | 笑う万里。 |
2 | 夕日の中、手をつないで道を歩いてい |
3 | く万里と孝太郎。 |
4 | |
5 |