.表紙 旅 亮の鉄旅ダイヤ 烏野 博史 .人物 【シナリオ】 課題 旅 題名 亮の鉄旅ダイヤ 作 烏野博史 【一行テーマ】 希望に手を伸ばす勇気を持とう。 【三行ストーリー】 宮沢亮(10)は鉄道博士の名誉を取り戻すため下灘へ出発。行く先々で事件を起こす木村健児(10)の母を訪ねて健児と友情を結ぶ。 【人 物】 宮沢亮(10)縄浜小学校・四年ろ組 木村健児(10)その同級生、小学生、 山田巴(33)健児の母 柿本理絵(10)その同級生、小学生 宮沢晴子(39)亮の母 大男(52) 看護師(42) 車掌、駅員、作業員、生徒達、通行人達、人々、患者達、乗客達 .脚本 |
1P | ①縄浜小学校・校門 |
2 | 生徒達が登校している。 |
3 | 〝縄浜小学校〟の表札。 |
4 | |
5 | ②同・四年ろ組(朝) |
6 | 思い思いの場所に散っている生徒達。 |
7 | 机で〝鉄道ダイヤル〟を読んでいる宮 |
8 | 沢亮(10)。 |
9 | 教室に入り、隣の机にランドセルを置 |
10 | く柿本理絵(10)、亮をのほう見る。 |
2P | 理絵「あっ、これかわいい」 |
2 | 亮のランドセルについている電車のキ |
3 | ーホルダーに触れる理絵。 |
4 | 亮「良いでしょう」 |
5 | 理絵「なに読んでるの?」 |
6 | 亮「鉄道ダイヤル。」 |
7 | しげしげと鉄道ダイヤルをめくる絵理。 |
8 | 〝伊予灘ものがたり〟の特集ページで |
9 | 手をとめる。 |
10 | 亮「この列車は〝伊予灘ものがたり〟って言 |
3P | って愛媛県を通る特別列車なんだ。車体は夕 |
2 | 焼けをイメージした黄金色で、下灘駅を通る |
3 | 時なんて――」 |
4 | 理絵「きれい。宮沢君、鉄道博士ね」 |
5 | 亮、少し嬉しそう。 |
6 | 健児「行った事があるのか?」 |
7 | 木村健児(10)、ポケットに両手を突 |
8 | っ込んだまま亮の一つ前の机に座る。 |
9 | 狼狽する亮。 |
10 | 健児「(鼻で笑い)偉そうに。お前は見た事 |
4P | も、行った事も、乗った事もない電車につい |
2 | て、話すんだな。」 |
3 | 亮「そ、そんな事・・・・・・!」 |
4 | 理絵「それも、そうかもね」 |
5 | 驚愕する亮。自席に戻る理絵の後ろ姿 |
6 | を恨めしそうに見る亮、健児をにらむ。 |
7 | 健児「何だよ。本当の事だろ?」 |
8 | 亮と健児、にらみ合う。 |
9 | 亮「おじさんが、よく知っておく事も大事だ |
10 | って言ってったよ!」 |
5P | 健児「何だそれ? 食えるのか?」 |
2 | 亮、怒りに満ちた顔。 |
3 | 亮、勢いよく立ち上がり、椅子を倒す。 |
4 | |
5 | ③宮沢家・前(早朝) |
6 | 〝宮沢〟の表札。 |
7 | |
8 | ④同・玄関(早朝) |
9 | 勢い込んで靴ひもを結ぶ亮。 |
10 | 亮の鼻息は荒い。 |
6P | リュックサックを背負い、靴を掃いて |
2 | いる亮。亮のそばに立っている宮沢晴 |
3 | 子(39)。 |
4 | あくびをする晴子。 |
5 | 晴子「本当に一人で大丈夫?」 |
6 | 亮「うん。行ってくる」 |
7 | 亮「大丈夫! 行き方は完全に頭にインプッ |
8 | トしているよ!」 |
9 | 晴子、ため息をつく。 |
10 | 晴子「行ってらっしゃい。道には気をつけな |
7P | さい。」 |
2 | 亮「うん」 |
3 | 亮、前のめりに歩いて玄関を出て行く。 |
4 | |
5 | ⑤縄浜駅・ホーム(早朝) |
6 | 〝縄浜駅〟の看板。 |
7 | 時計は5時半を指している。 |
8 | 辺りは暗く、人影のないホーム。リュ |
9 | ックを背負った亮が時刻表を見上げて |
10 | いる。 |
8P | 欠伸をしながらホームに上がる健児。 |
2 | ホームを歩く健児、亮を横切ろうとす |
3 | る。振り返る亮、健児とぶつかる。 |
4 | 亮「あ!」 |
5 | 健児「・・・・・・お前、虫眼鏡」 |
6 | 亮「なな、なんだよ。虫眼鏡って!?」 |
7 | 健児「(声をひそめ)いちいち、うるさい」 |
8 | 健児、亮の口をふさぎ、辺りを伺う。 |
9 | 健児「お前・・・・・・どこに行くんだ?」 |
10 | 亮「下灘」 |
9P | 健児「どこだよ」 |
2 | 亮「愛媛の駅だよ」 |
3 | 神妙な顔で亮を見る健児。 |
4 | 健児「愛媛・・・・・・そうか。ふーん。」 |
5 | 亮「そっちは?」 |
6 | 健児「(鼻で笑い)お前には教えない」 |
7 | 亮、苦虫を噛み潰したような顔。 |
8 | 電車がやってくる。 |
9 | |
10 | ⑥大阪~岡山間(朝) |
10P | 快速電車が線路を走っている。 |
2 | |
3 | ⑦走る快速電車の中(朝) |
4 | ガラガラの車内で車窓の外を見ている |
5 | 亮、リュックから財布を取り出し中を |
6 | 確認する。 |
7 | 亮、ため息をつき顔をあげる。 |
8 | 亮の向かい、少し離れた席で横になっ |
9 | ている健児。 |
10 | 視線に気づき、亮を睨む健児。 |
11P | 健児「あぁ?」 |
2 | 亮「何でついてくんの?」 |
3 | 健児「お前こそ、なんで愛媛に行くんだよ」 |
4 | 亮「え、それは・・・・・・おじさんが、下 |
5 | 灘はきれいな場所だし、僕ならいけるって― |
6 | ―」 |
7 | 健児「おじさんておじさんて、お前もおじさ |
8 | んも、そんなに電車が好きなんて馬鹿か?」 |
9 | 亮、貧乏ゆすり。 |
10 | 亮「もう良いだろ。向こうへ行けよ! 僕は |
12P | 君と一緒にいきたくないんだよ」 |
2 | 健児「あぁ!?」 |
3 | 椅子をける健児。身をよじる亮。 |
4 | 健児、亮からもう少し離れた席に座る |
5 | と窓の外を見ながら鼻くそをほじる。 |
6 | 亮、不愉快そうに窓の外を見る。 |
7 | |
8 | ⑧岡山駅・一階・一番ホーム(朝) |
9 | 〝岡山駅〟の看板。 |
10 | 電車がホームに到着。人混み。 |
13P | 電車のドアから亮が出てくる。 |
2 | 別のドアから出てくる健児。 |
3 | 亮、健児が歩きさるのを見て胸をなで |
4 | おろす。 |
5 | |
6 | ⑨同・二階・売店付近(朝) |
7 | 人込み。売店の棚には菓子、雑誌、飲 |
8 | 料水など。健児、棚のかげから店内を |
9 | 伺い見て、棚にある菓子をシャツの中 |
10 | に忍び込ませていく。 |
14P | |
2 | ⑩同・一階・5番ホーム(朝) |
3 | リュックから、乗り換え案内のコピー |
4 | を取り出し見ている亮。 |
5 | 大男の声「おい、待て!」 |
6 | 健児の声「嫌だ!」 |
7 | 声のほうを見る亮。目を見開く亮。 |
8 | そばにある連絡通路への階段の上で、 |
9 | 大男に追われている健児。 |
10 | 健児の胸ぐらをつかむ大男。 |
15P | 腕にかみつき、そのまま亮のほうに走 |
2 | ってくる健児。 |
3 | すごい早さで階段を降りてくる健児。 |
4 | 唖然とする亮。 |
5 | 健児が亮のほうにかけてくる。 |
6 | 側のゴミ箱の横に隠れる健児。 |
7 | 大男が階段を降りてくる。 |
8 | 大人「ここにお前ぐらいの子供を通らなかっ |
9 | たか?」 |
10 | 亮「あっちにいきました」 |
16P | 亮はホームの先を指さす。 |
2 | 大人「そうか」 |
3 | 大人、走りさる。 |
4 | 亮、振り返る。 |
5 | 亮「どうしたの?」 |
6 | 健児、亮の背後から出てくる。 |
7 | 健児「(息をきらして)見ただろ。暴力親父 |
8 | だよ・・・・・・次はどっちだ?」 |
9 | 亮「ここでマリンライナー号に乗り換え」 |
10 | 健児「そか」 |
17P | やってきたマリンライナー17号に乗り |
2 | 込む健児。ため息をつく亮。 |
3 | |
4 | ⑪瀬戸大橋(朝) |
5 | 瀬戸大橋を渡っているマリンライナー1 |
6 | 7号。眼下に海が広がる。 |
7 | |
8 | ⑫走るマリンライナー17号の中(朝) |
9 | 二階建ての展望車から外を見る亮と健 |
10 | 児。眼下に広がる瀬戸内海。 |
18P | 亮「マリンライナー号は岡山電車の223系電車 |
2 | と四国高松運転所の5000系電車で編成されて |
3 | いるんだ。四桁の型式番号は本当は私鉄で採 |
4 | 用されている表記なんだけどJR四国だけは |
5 | ――」 |
6 | 健児「(感嘆)よく知ってるな」 |
7 | 嬉しそうに健児を見る亮。 |
8 | 亮と健児が並んで座る。 |
9 | 健児、シャツの下からお菓子を数個と |
10 | りんご二個を取り出す。 |
19P | 健児「やるよ」 |
2 | 亮「本当に?」 |
3 | 健児、うなずく。 |
4 | 亮と健児、菓子を頬張る。 |
5 | リュックから弁当箱を取り出す亮。 |
6 | 亮「あぁ、じゃ僕の弁当も少しいる?」 |
7 | 健児「気がきくね」 |
8 | 健児、亮の弁当箱のおにぎりをつまむ。 |
9 | 健児「・・・・・・俺は愛媛の松山に行く所 |
10 | なんだ」 |
20P | 健児は住所の書いたメモを見ている。 |
2 | 亮「何でいくの」 |
3 | 健児「それは・・・・・・言えねぇな」 |
4 | 亮、スマートフォンに住所を入力する。 |
5 | 亮「僕は道はわかるよ」 |
6 | 健児「そりゃ良いや。便りにしているぞ。」 |
7 | 電車のキーホルダーを見る健児。 |
8 | 健児「これ良いじゃん。俺にくれよ」 |
9 | 亮「駄目だよ。これは大事な物なんだ」 |
10 | 健児「大事な事って何だよ?」 |
21P | 亮「家族を大切にする事をおじさんと約束し |
2 | た証拠なんだ。君にはあげられないよ」 |
3 | 健児「ふん。家族ねぇ。じゃ、俺もこのりん |
4 | ごは母ちゃんにでもやろうかな」 |
5 | 二つのりんごのうち一つをシャツの中 |
6 | にいれて、もう一つを亮に差し出す。 |
7 | 健児「もう一つは、やるよ」 |
8 | 亮「あ、ありがとう」 |
9 | 健児、にやりと微笑む |
10 | 健児「お前、好きだろ。隣の席の柿谷――」 |
22P | 亮「いいや、そそそんな事ないよ」 |
2 | あわてて両手を振る亮。笑う健児。 |
3 | |
4 | ⑬高松駅・全景 |
5 | 電車が到着。建物に〝高松駅〟と書か |
6 | れている。 |
7 | |
8 | ⑭同・マリンライナー17号の中 |
9 | 亮と健児、並んで寝ている。床には空 |
10 | の菓子袋が落ちている。 |
23P | 目を覚ます健児。 |
2 | 健児「おい、ついたぞ」 |
3 | 亮、目を覚まし、ホーム内を見る。 |
4 | 窓にはりつく亮。 |
5 | |
6 | ⑮同・ホーム |
7 | 〝高松〟の看板。 |
8 | 人々が行き交っている。路線図の前で、 |
9 | 運行表を必死に見ている亮。亮の後ろ |
10 | でのんびり腕を組んでいる健児。 |
24P | 健児「ここじゃないのか?」 |
2 | 眉を顰める亮、リュックから四国の地 |
3 | 図を取り出す。地図の香川県高松市と |
4 | 愛媛県松山市を指さす亮。 |
5 | 亮「こっちが高松で、こっちが松山」 |
6 | 健児「反対じゃねぇか!」 |
7 | 亮「・・・・・・」 |
8 | 健児「おいおいおい。勘弁してくれよ。」 |
9 | 大仰に頭を抱える健児。 |
10 | ムッとする亮。 |
25P | 健児「おいおいおいおい。どうすんだよ。俺、 |
2 | 急いでいるんだけど」 |
3 | 亮「僕だって急いでるんだ。お母さんに今日 |
4 | 中に帰るって言っちゃったし」 |
5 | 健児「はん! ママには逆らえないってか」 |
6 | 亮「・・・・・・このまま、快速に乗れば松 |
7 | 山に行けると思う。でもそれじゃ、僕は間に |
8 | 合わない。特急〝いしづち号〟でいくよ」 |
9 | 健児「おいおいおいおいおい。案内役のお前 |
10 | が道を間違えたのに一人で行く気かよ」 |
26P | 亮、苦い顔をする。 |
2 | 亮「・・・・・・」 |
3 | みどりの券売機に歩く亮。 |
4 | 駅の次発列車を確認している健児。 |
5 | 亮、浮かない顔。 |
6 | 券売機の画面、枚数ボタン。 |
7 | 財布の中身、二人分の料金はありそう。 |
8 | 〝二人〟のボタンを押す亮。 |
9 | |
10 | ⑯線路 |
27P | 山中を走る特急〝いしづち11号〟。 |
2 | 亮の声「これで責任とったからね」 |
3 | |
4 | ⑰走る特急〝いしづち11号〟の中 |
5 | 隣同士だが、不機嫌そうに反対の窓を |
6 | 見ている亮と健児。アナウンスが宇多 |
7 | 津駅への到着を告げる。 |
8 | 窓の外を真剣に見つめる亮。 |
9 | ホームには赤い旗を掲げた作業員。 |
10 | 健児の体を揺らす亮、健児を連れて車 |
28P | 両の先頭を指さす。亮の後を追いかけ |
2 | て車両の先頭に行く健児。 |
3 | 窓の外の線路の先、車掌ごしに、しお |
4 | かぜ11号の車両が見える。 |
5 | 亮「高松から来る特急いしづち号は岡山から |
6 | 来る特急しおかぜ号とここで併結されて松山 |
7 | に行くんだ」 |
8 | 真剣な亮の横顔を伺いみて、よくやる |
9 | よとあくびをかみ殺し前を見る健児。 |
10 | |
29P | ⑱宇多津駅・ホーム |
2 | いしづち11号の車両の先頭にある仕切 |
3 | 扉を開ける作業員。作業員は赤と緑の |
4 | 旗をもっており、緑の旗をかかげる。 |
5 | いしづち11号、しおかぜ11号に近づく。 |
6 | 旗を左右にふる作業員。 |
7 | ゆっくり連結。 |
8 | 作業員、連結部の幌を張り、いしづち1 |
9 | 1号から出て行く。 |
10 | |
30P | ⑲松山駅・前 |
2 | 〝松山駅〟の看板。 |
3 | |
4 | ⑳松山駅・一番ホーム |
5 | 特急しおかぜ号から出てくる。 |
6 | 亮「ここから乗り換えで〝愛ある伊予灘線〟 |
7 | から下灘に行くんだ」 |
8 | 深刻な顔の健児、立ち止まる。 |
9 | 健児「あ、ここだ。俺ここで降りるよ。ほら」 |
10 | 健児、ポケットから住所メモを取り出 |
31P | して亮に見せる。 |
2 | メモには松山市の病院の住所。 |
3 | 健児「そうだ。お金いくらか貸してくれよ」 |
4 | 亮、眉を顰める。 |
5 | 亮「・・・・・・お金? ないの?」 |
6 | 健児「いや、あるよ」 |
7 | 健児、ポケットを探り、手の内を確認。 |
8 | 健児の手の平、お菓子の袋と五百円玉。 |
9 | 亮「――帰れもしないよ!」 |
10 | 健児「帰れるって」 |
32P | 亮「(恐る恐る)切符はどこまで買ったの」 |
2 | 健児「切符?」 |
3 | 健児、反対側のポケットを探る。 |
4 | 健児の手の平に百五十円分の切符。 |
5 | 亮、健児を凝視する。 |
6 | 亮「駄目だよ!」 |
7 | 健児「駄目じゃねぇよ!」 |
8 | 亮「いや駄目だよ。お金は払わなきゃ」 |
9 | 健児「何だと!?」 |
10 | 健児、亮の胸ぐらを掴む。 |
33P | 健児「・・・・・・お前みたいに、いつでも |
2 | 母ちゃんにべったりの奴にはわからねぇよ!」 |
3 | 亮「どういう事?」 |
4 | 健児「言ってるまんまだ。俺は母ちゃんの所 |
5 | には滅多に行かない。だから駄目じゃない」 |
6 | 亮、一瞬ひるむが、健児をにらむ。 |
7 | 亮「……出れないよ」 |
8 | 健児、にやりと微笑む。 |
9 | 駅舎と反対側を見る健児。 |
10 | 三番ホームのほう、いくつかの整備用 |
34P | 車線の向こう側に公道が見える。 |
2 | 健児「案外出やすそうだ」 |
3 | 亮「駄目だよ」 |
4 | 健児、ため息をつく。 |
5 | 健児「良いんだよ」 |
6 | 亮「改札の乗り越し精算機で払えるよ。」 |
7 | 健児「喧嘩売ってるの?」 |
8 | 亮「駅員の人が困る」 |
9 | 健児「俺の事なんて、誰も気にしないよ」 |
10 | 亮「犯罪だ」 |
35P | 健児、ニヤリと微笑む。 |
2 | 健児「お前もな」 |
3 | 亮「僕は違う」 |
4 | 健児「お前、お菓子食ったよな。あれ売店か |
5 | らパクってきた奴だぜ」 |
6 | 亮「え」 |
7 | 健児「(小さな声で)ほら、告げ口したいな |
8 | ら行けよ」 |
9 | 亮の背後、ホームの駅舎寄りの所に駅 |
10 | 員が立っている。 |
36P | 亮、悲しそうに俯く。 |
2 | 亮「はやく・・・・・・どっか行けよ!」 |
3 | うすら笑いをうかべて、反対車線への |
4 | 階段を上る健児。健児の後ろ姿に延ば |
5 | した手をひっこめる亮。 |
6 | |
7 | ○21同・三番ホーム |
8 | 深刻な面持ちにベンチに腰掛ける亮。 |
9 | 亮、特別列車〝伊予灘ものがたり〟の |
10 | 資料の入ったクリアファイルを見る。 |
37P | 〝伊予灘ものがたり〟の下灘での通過 |
2 | 時刻、17時13分。日の入り時刻、17時2 |
3 | 0分。資料には亮によるメモ、〝デッ |
4 | ドライン、松山では15時35分に乗車〟。 |
5 | 亮、時計を見る。 |
6 | 時計、現在の時刻、15時27分。 |
7 | 亮、急いで、リュックに資料を片づけ |
8 | る。リュックの中にカサリと言う音が |
9 | 聞こえ、リュックをのぞく亮。 |
10 | リュックの中には、健児の菓子の袋。 |
38P | 苦い顔で舌うちをする亮。 |
2 | 菓子袋のそばにりんごある。 |
3 | 亮「・・・・・・」 |
4 | 亮、スマートフォンを見る。スマート |
5 | フォンで調べた住所の履歴。 |
6 | スマートフォンについている電車キー |
7 | ホルダー。 |
8 | 浮かない顔の亮、ため息をつき改札に |
9 | 引き返す。 |
10 | |
39P | ○22道 |
2 | 松山の町の道をかける亮。 |
3 | 道には路面電車用の線路が見える。向 |
4 | こうから小型の蒸気機関車の形をした |
5 | 〝坊ちゃん列車〟が白い煙を出してや |
6 | ってくる。脇を横切る坊ちゃん列車を |
7 | 物欲しそうに追いかけるが、頭を振り |
8 | 道を急ぐ。 |
9 | 温泉街の風景。 |
10 | 健児の後ろ姿。 |
40P | 別れ道。メモ片手に電信柱の住所を見 |
2 | る健児。首をひねり、片方の道を歩く。 |
3 | 亮の声「そっちじゃないよ!」 |
4 | 声のほうに振り返る健児。 |
5 | 亮、かけてきて、もう片方の道を見る。 |
6 | 亮「道はこっち」 |
7 | 健児「なんでここにいるんだ虫眼鏡?」 |
8 | 亮「どうでも良いだろ。ほら」 |
9 | 健児「お、おぅ」 |
10 | 亮の後を追いかける健児。 |
41P | |
2 | ○23道後温泉湯月病院・前 |
3 | 住所のメモを片手にまぶしそうに病院 |
4 | を見上げる健児と亮。 |
5 | 固唾をのみ病院に入る健児。健児の後 |
6 | を歩く亮。 |
7 | 〝道後温泉湯月病院〟の看板 |
8 | 看護師の声「あぁ山田さん、102号室ね」 |
9 | |
10 | ○24同・102号室・前 |
42P | 亮と健児が看護師(42)の後を歩いて |
2 | いる。病院を物珍しげに見回す亮。亮 |
3 | の横を歩く健児。健児、深刻な顔。 |
4 | 看護師「喜ぶわよ。お母さん。あ、ここよ」 |
5 | 看護師、102号室の前で振り返る。 |
6 | 扉横のプレートに〝山田巴〟の名前。 |
7 | 亮「ありがとうございます」 |
8 | 亮が健児を見る。 |
9 | 健児「あっ、俺、うんこ!」 |
10 | 亮「え!」 |
43P | 元来た道を引き返して走る健児。 |
2 | 唖然とする看護師、亮を見る。 |
3 | 亮「あ、じゃぁ、あ、僕も、あ、また来ます |
4 | から! すみません!」 |
5 | 健児を追いかける亮。 |
6 | ぽかんとする看護師。 |
7 | |
8 | ○25同・前 |
9 | 病院からかけでてくる健児。 |
10 | 健児の後をおいかける亮。 |
44P | 亮「待ってよ! お母さんに会うんでしょ! |
2 | ?」 |
3 | 健児、立ち止まる。亮、息をつく。 |
4 | 健児「もう良いや。俺、帰るわ」 |
5 | 亮、一瞬躊躇するが、意を決して健児 |
6 | の腕を掴む。 |
7 | 亮「駄目だよ」 |
8 | 健児「あぁ?」 |
9 | 健児、亮をふりほどく。 |
10 | 亮「もうすぐそこだよ」 |
45P | 健児「うるせぇ、虫眼鏡!」 |
2 | 亮「逃げるの?」 |
3 | 健児、凶暴な顔で亮をにらみつける。 |
4 | 健児「大体、お前、電車乗るんじゃなかった |
5 | のか!?」 |
6 | 亮「やめた。ほら行くよ」 |
7 | 健児の手を引く亮。 |
8 | 健児「離せ」 |
9 | 亮「離さない」 |
10 | 健児、亮を殴る。倒れる亮。 |
46P | 亮「家族は大切にしないと駄目だろ!」 |
2 | 健児「あぁ!?」 |
3 | 亮、健児の手を引っ張る。 |
4 | 健児「なんだ弱っちいくせに!」 |
5 | 健児、亮を倒す。 |
6 | 亮、おきあがり健児を殴る。 |
7 | 健児「やったな。虫眼鏡!」 |
8 | 亮「虫眼鏡じゃない」 |
9 | 行き交う人々が亮と健児を見ている。 |
10 | 健児、息を切らしはじめる |
47P | 健児「やめろ、何でそんなに必死なんだ」 |
2 | 亮「(息も絶え絶えに)大事なんだろ……な |
3 | ら、手を伸ばさなくちゃ駄目だ……!」 |
4 | 亮と健児、つかみあいながら倒れる。 |
5 | 大の字に倒れて息をつく亮と健児。 |
6 | 健児「あぁ、わかった。行く! 行くよ! |
7 | これで良いだろ!」 |
8 | 健児、上体を起こす。 |
9 | 亮「・・・・・・うん」 |
10 | 亮、擦り傷のある顔で満足そうに笑う。 |
48P | |
2 | ○26同・102号室 |
3 | 四人部屋。山田巴(33)が自分のベッ |
4 | ドの上で窓の外を見ている。ノック。 |
5 | 健児と亮が入ってくる。 |
6 | 健児「母ちゃん」 |
7 | 巴、身を乗り出す。 |
8 | 巴「健児・・・・・・」 |
9 | 健児「母ちゃん」 |
10 | 巴が健児をを抱きしめる。 |
49P | 嬉しそうな健児と巴。 |
2 | 目を細める亮。 |
3 | 満足そうに二人を見つめる亮。 |
4 | サイドテーブルの上に置かれたりんご。 |
5 | りんごを愛おしそうに見る巴。 |
6 | 巴「嬉しいわ。健児、どうやって来たの?」 |
7 | 巴、健児を見る。 |
8 | 健児「え、とそれは・・・・・・」 |
9 | 健児、亮を見る。 |
10 | 目を泳がす亮。 |
50P | 健児「父ちゃんに送ってもらったんだよなぁ!」 |
2 | 亮「え、あ、どうかな」 |
3 | 巴「そう。あの人は?」 |
4 | 健児「今、ちょっと外で待ってるって、だか |
5 | らすぐ帰らないと。なぁ」 |
6 | 笑顔の健児。 |
7 | 亮「‥…はい」 |
8 | きょとんとする亮。 |
9 | |
10 | ○27道後公園・前(夕) |
51P | 〝道後公園、国史跡、湯築《ゆづき》城跡〟の看 |
2 | 板。堀に囲まれた小高い公園。 |
3 | |
4 | ○28同・展望台(夕) |
5 | 眼下に道後公園と町が広がる。亮と健 |
6 | 児が町を見下ろしている。 |
7 | 亮「良いの?」 |
8 | 健児「あぁ下灘だっけ、もう行かないのか?」 |
9 | 亮「〝伊予灘ものがたり〟はもう、出ていな |
10 | いからね」 |
52P | 健児「明日行こうぜ」 |
2 | 亮「いやもう。もう多分心配されているし」 |
3 | 健児「ちょーっとぐらい大丈夫だって」 |
4 | 亮、リュックの中をさぐる。 |
5 | 亮「お金あるかな。てそっちはないでしょ?」 |
6 | 健児、千円札を五枚取り出す。 |
7 | 健児「ジャジャーン。ババアがくれた。これ |
8 | でお前への借りは返せるし、電車乗り放題」 |
9 | 亮、憂いを込めた顔で微笑む。 |
10 | 亮「乗るに足りないね。帰るのでギリだよ」 |
53P | 健児「え、そうなのか?」 |
2 | 亮「うん」 |
3 | 亮、にこりと微笑む。 |
4 | 亮「でも、じゃぁ、行こう。下灘に!」 |
5 | 健児の顔に笑顔が広がる。 |
6 | 亮「あぁ、でもお母さんに、帰れなくなった |
7 | 事を言わないと・・・・・・」 |
8 | 亮、スマートフォンを取り出す。 |
9 | 健児「そうと決まればもう寝るぞ!」 |
10 | ごろりと寝付く健児。いびき。 |
54P | 亮、健児を見て笑う。 |
2 | |
3 | ○29下灘駅・全景(早朝) |
4 | 一面一線の無人駅、下灘駅。松山駅か |
5 | らのワンマン気動車が駅のホームにや |
6 | ってきて停まる。 |
7 | |
8 | ○30下灘駅・ホーム(朝) |
9 | 気動車から下りる亮と健児。ホームに |
10 | 立つ亮と健児。周りには遮るものがな |
55P | く眼の前には海が広がっている。 |
2 | 健児「ここに電車が通っているってすごいな」 |
3 | 亮「電車じゃないよ、気動車。熱機関で動い |
4 | ているから電線がいらないんだ。燃料を燃や |
5 | すから煙も出てる」 |
6 | 山の向こうから海に朝日が指す。 |
7 | 亮「きれいだね」 |
8 | 健児「あぁ」 |
9 | 満足気に伸びをする亮を見る健児。 |
10 | 健児「俺の親、離婚ていうの? しているら |
56P | しいんだよ。今は父ちゃんと暮らしているん |
2 | だけど、それが、くそ親父でな、全然母ちゃ |
3 | んに合わせねぇ。本当に困った奴だぜ」 |
4 | 亮「へぇ。僕も秘密にしてる事があるんだ」 |
5 | 健児「うん?」 |
6 | 亮「君に行った事のない場所の話をしている |
7 | って言われて、僕も一人で行った事あるぞっ |
8 | て言いたかったんだ。だからここに来た」 |
9 | 健児、うなづく。 |
10 | 〝伊予灘ものがたり〟がやってくる。 |
57P | 健児「来たぞ」 |
2 | リュックから一眼レフカメラを取り出 |
3 | し構える亮。 |
4 | 健児「亮!」 |
5 | 亮、怪訝な顔で健児を見る。 |
6 | 健児「ありがとう」 |
7 | ぽかんとする亮、微笑む。 |
8 | 亮「うん」 |
9 | 健児「何がうんだ。このやろう!」 |
10 | 〝伊予灘ものがたり〟が到着する。大 |
58P | 海原のすぐ横、楽しそうにじゃれ合う |
2 | 亮と健児。 |
3 | |
4 | ○31縄浜小学校・校門(朝) |
5 | ランドセルを背負った亮。 |
6 | 健児「おぉ!」 |
7 | 手ぶらの健児がかけてきて、亮の肩に |
8 | 手を回す。驚く亮。 |
9 | 健児「なに暗い顔してるんださぁ行こうぜ」 |
10 | 亮「うん」 |
59P | 亮と健児、校門をくぐる。 |
2 | |
3 | ○32同・四年ろ組(朝) |
4 | 亮と健児、教室に入る。 |
5 | 理絵、駆け足で亮と健児に寄る。 |
6 | 理絵「木村君、大丈夫だったの? 知りませ |
7 | んかて連絡網が回ってきたから」 |
8 | 亮と健児、顔を見合わせる。 |
9 | 健児、手を振る |
10 | 健児「いや旅に出てたんだよ。愛媛県に!」 |
60P | 理絵「え、本当に」 |
2 | 健児「聞かせてやろうぜ。なぁ亮!」 |
3 | 驚く亮、うなづく。 |
4 | 側にある机に座る健児。亮がランドセ |
5 | ルから写真を取り出して、椅子に座る。 |
6 | 理絵も椅子に座る。 |
7 | 亮「まず僕たちは土曜日の朝早くまだ暗いう |
8 | ちからすぐそこの駅行ったんだ、そしたら、 |
9 | 健児君がいて・・・・・・」 |
10 | 神妙にうなづく理絵。 |
61P | 楽しそうに話す亮と健児。 |
2 | 机の上の写真、伊予灘ものがたりを背 |
3 | に顔に傷をつけた健児と亮の写真。 |
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