.表紙 伝統文化継承問題 接ぐもの達 烏野 博史 .人物 【シナリオ】 課題 伝統文化継承問題 題名 接ぐもの達 作 烏野博史 【一行テーマ】 【三行ストーリー】 伝統工芸士、鈴木浩介(58)が倒れる。鈴木浩平(28)と職人の北方八重子(28)は鈴木家具の意志と技術を継ぐべく奮闘する。 【人 物】 鈴木浩平(28~10)会社員 北方八重子(28~10)鈴木家具・職人 鈴木浩介(58~40)鈴木家具・社長 鈴木一平(83~65)鈴木家具・職人 鈴木安子(55)鈴木家具 十勝十蔵(67)木工職人会・会長 通訳 バイヤー 職人A 職人B 職人C バイヤー達 客達 .脚本 |
1P | ①松前病院・前 |
2 | 〝松前病院〟の看板。 |
3 | |
4 | ②同・浩介の病室 |
5 | ベッドには鈴木浩介(58)が寝ている。 |
6 | ベッドの側に座っている鈴木安子(55 |
7 | )。 |
8 | 鈴木浩平(28)が病室に駆け入る。 |
9 | 安子、立ち上がる。 |
10 | 安子「浩平」 |
2P | 浩平「どう?」 |
2 | 浩介「(弱弱しく)大したことはない」 |
3 | 安子「三日間も昏睡状態だったんだから」 |
4 | 安子、浩平の背中を押して廊下に出る。 |
5 | |
6 | ③同・廊下 |
7 | 浩平と安子、廊下に出てくる。 |
8 | 浩平「それで、どうなんだい? 父さんの状 |
9 | 態は?」 |
10 | 安子「脳梗塞だって、血液をサラサラにする |
3P | 薬を使ってるんだけど、体が麻痺してて、し |
2 | ばらく入院ですって」 |
3 | 浩平「そうなんだ」 |
4 | 安子、浮かない顔。 |
5 | 安子「後遺症が残るかもしれないんですって」 |
6 | 浩平、神妙に頷く。 |
7 | 安子「お父さんも随分弱気になって・・・・ |
8 | ・・戻ってくる事はできない?」 |
9 | 浩平、腕を組んで考え込む。 |
10 | 浩平「考えて見るよ」 |
4P | 八重子の声「あれ浩平? 帰って来てたんだ」 |
2 | 声のほうをみる浩平。 |
3 | 北方八重子(28)、見舞いの花束を片 |
4 | 手に歩いてくる。 |
5 | |
6 | ④同・浩介の病室 |
7 | 浩平と八重子と安子、病室に入ってく |
8 | る。八重子の手には花束。 |
9 | 八重子「親方、お元気ですか?」 |
10 | 浩介「あぁ、誰だ」 |
5P | 八重子「八重子です。職人の北方八重子。お |
2 | 見舞いに来ました」 |
3 | 八重子、安子に花束を渡す。 |
4 | 浩介「あぁ・・・・・・八重ちゃん。」 |
5 | 八重子「はい。あっ親方。来月の新作展示会 |
6 | のために〝木工職人会〟に誰か寄越して欲し |
7 | いそうです」 |
8 | 浩介「〝木工職人会〟・・・・・・あぁ」 |
9 | 八重子「親方?」 |
10 | 浩介「俺はこんなだし、展示会には参加しな |
6P | いでおこうと思う」 |
2 | 息をのむ浩平と安子。 |
3 | 安子、浩平をみる。 |
4 | 浩平「俺行こうか?」 |
5 | 安子「浩平に行ってもらいましょうよ」 |
6 | 浩介、浩平をにらむ。 |
7 | 浩平「何だよ」 |
8 | 浩介「八重ちゃんも行ってくれるか」 |
9 | 八重子「あっ、はい」 |
10 | 浩平、眉をひそめる。 |
7P | |
2 | ⑤〝ぐでんぐでん〟・前(夜) |
3 | 〝居酒屋 ぐでんぐでん〟の看板。 |
4 | |
5 | ⑥同・店内(夜) |
6 | 浩平と八重子、十勝十蔵(67)とその |
7 | 同世代の職人Aと職人Bと職人Cとテ |
8 | ーブルを囲んで座っている。 |
9 | 各々の前に置かれたビール。 |
10 | 十勝、ジョッキを片手に立ち上がる。 |
8P | 十勝「えぇ、それじゃ木工職人会の会議を始 |
2 | めます。展示会では、予定通りお互いがんば |
3 | って盛り立てていきましょう。乾杯!」 |
4 | 浩平と八重子と十勝と職人Aと職人B |
5 | と職人C、乾杯する。 |
6 | 空のビールのジョッキが数個置かれて |
7 | いる。 |
8 | 十勝「ーーいやぁでも〝鈴木家具〟さんはう |
9 | らやましい。こんなに若いのが育ってるんだ |
10 | から」 |
9P | 職人A「うちも一人若手はいるぞ」 |
2 | 職人B「俺の所はいないな」 |
3 | 八重子「私はそうですが、浩平は親方の代理 |
4 | で来ていて別の会社で働いていますよ」 |
5 | 残念な顔をする十勝。 |
6 | 空のご飯の食器。 |
7 | 職人A「不景気で皆が金を使わないし。売れ |
8 | ないから問屋の数は減っている」 |
9 | 職人B「でも手工業は見直されている。そう |
10 | だろう」 |
10P | 職人C「でもよぉ、買うかね。子供がね、最 |
2 | 近は安く買って長く使うんだと」 |
3 | 十勝「よし。国からの助成金用の申請はその |
4 | 内容で行こう。 |
5 | 職人達、うなずく。 |
6 | 十勝、八重子と浩平のほうを見る。 |
7 | 十勝「それで、浩介さんはどうだって?」 |
8 | 八重子、ビールを飲みながら。 |
9 | 八重子「親方は参加できる状態じゃないです。 |
10 | 随分気落ちしてるみたいで・・・・・・」 |
11P | 残念そうな十勝と職人達。 |
2 | 十勝たちの様子を申し訳なさそうに見 |
3 | る浩平。 |
4 | 浩平「・・・・・・でもやっぱり〝鈴木家具 |
5 | 〟は参加させてもらおうと思います」 |
6 | 八重子「え?」 |
7 | 八重子、驚いて浩平をみる。 |
8 | 八重子「でも親方怒るよ」 |
9 | 浩平「大丈夫だって、八重子もいるし」 |
10 | 八重子、ため息をつく。 |
12P | 十勝「そうか!・・・・・・さぁさ、飲もう!」 |
2 | 十勝、上機嫌。 |
3 | 浩平「はい。あれ、会議は?」 |
4 | 十勝「あぁ、後で見ておいてくれ」 |
5 | 十勝、浩平に〝展示会の資料〟を渡す。 |
6 | 浩平「あっ、どうも」 |
7 | 愛想笑いを浮かべる浩平と八重子。 |
8 | |
9 | ⑦道(夜) |
10 | 浩平と八重子が歩いている。 |
13P | 浩平が〝展示会の資料〟を見ている。 |
2 | 八重子「あんな事言って、親方怒るよ」 |
3 | 浩平、ため息をつく。 |
4 | 浩平「仕方ないだろ。」 |
5 | 浩平をじっと見ている八重子。 |
6 | 八重子「浩平? またあっちに戻るの」 |
7 | 浩平「どうするかは決めていない。けど・・ |
8 | ・・・・今は放ってはおけないからな」 |
9 | 八重子「あっそ」 |
10 | 八重子、そっぽを向く |
14P | 浩平「何だよ」 |
2 | 八重子「別に? 私、こっちだから。そうだ。 |
3 | 展示会の件、親方には浩平からちゃんと言っ |
4 | といてね」 |
5 | 八重子、そっけなく歩きさる。 |
6 | 浩平「何だよ」 |
7 | ため息をつく浩平。 |
8 | |
9 | ⑧鈴木家・前(朝) |
10 | 鈴木家に連なって工房の建物がある。 |
15P | 〝鈴木家具〟の看板。 |
2 | |
3 | ⑨同・居間(朝) |
4 | 和室の居間。安子がちゃぶ台で帳簿を |
5 | つけている。 |
6 | 浩平が〝展示会用の資料〟を持って入 |
7 | ってくる。 |
8 | 浩平「(ひとりごと)招待状、協賛、展示の |
9 | 場所、さわやかホール、・・・・・・あと新 |
10 | 作展示の内容か」 |
16P | メモ用紙に書き込んでいく。 |
2 | 安子「おはよう。浩平、昨日はちゃんと言っ |
3 | てくれた?」 |
4 | 浩平「あっ、参加するって言っちゃった」 |
5 | 安子、ため息をつく。 |
6 | 安子「知らないわよ」 |
7 | 浩平「そういえばさ、助成金の話が出てたけ |
8 | ど鈴木家具も結構苦しいの?」 |
9 | 安子「あまり良くはないわね。借金があるよ」 |
10 | 浩平「へぇ」 |
17P | 安子「だから、お父さんもあんたが今の会社 |
2 | に入る時は反対しなかったでしょ」 |
3 | 浩平「そうなんだ」 |
4 | 少し驚く浩平、手元の資料に目線を落 |
5 | とす。 |
6 | |
7 | ⑩同・工房(朝) |
8 | 工房の壁には所定の場所に鋸や鉋やノ |
9 | ミなどの道具が陳列されている。中央 |
10 | には職人が作業をするスペース。奥に |
18P | は材料置き場と机がある。 |
2 | 鈴木一平(83)と八重子が桐箪笥を作 |
3 | っている。 |
4 | 材料置き場から材の桐を選んでいる八 |
5 | 重子。 |
6 | 〝展示会資料〟を持って浩平がやって |
7 | くる。 |
8 | 浩平「ちょっと相談があるんだけど」 |
9 | ノミを使い桐の材に〝ほぞ〟という凹 |
10 | 凸を作っていく一平。 |
19P | 各木材に順々にほぞをつける一平。 |
2 | 一平、各木材のほぞをパズルのピース |
3 | のように合わせて木槌でたたき、桐箪 |
4 | 笥の引き出しの側面を組む。底板をつ |
5 | けて引き出しの形ができあがる。 |
6 | 各ほぞの間には隙間がなくぴったりと |
7 | はまっている。引き出しの桐箪笥への |
8 | 入り具合を見て鉋で薄く削り微調整を |
9 | する一平。 |
10 | 目を細める浩平。 |
20P | |
2 | ⑪(浩平の回想)同・工房(朝) |
3 | 鈴木一平(65)が鉋で桐箪笥の角に丸 |
4 | みをつけている。一平の横で作業をし |
5 | ている鈴木浩介(40)。 |
6 | 鈴木浩平(10)と北方八重子(10)が |
7 | 二人で木材持っている。じっと作業の |
8 | 様子を見ている浩平。 |
9 | 八重子「持ってきたよ!」 |
10 | 浩平と一平、八重子のほうを見る。 |
21P | 一平「おっ、八重ちゃん。ありがとう」 |
2 | 浩平がじっと浩介たちの作業を見てい |
3 | るのに気づく浩介。 |
4 | 浩介「浩平と八重ちゃんもやるか?」 |
5 | 浩平「うん」 |
6 | 八重子「やる!」 |
7 | ほぞを作ろうとノミと金槌を振るう浩 |
8 | 平と八重子の手。 |
9 | 浩平の作ったほぞ同士がいびつながら |
10 | はまる。 |
22P | 浩平「見て! できた」 |
2 | 浩介と一平が、浩平のほうを見て笑う。 |
3 | 浩介「おっ才能あるな。浩平」 |
4 | 上手くできずに木を割ってしまう八重 |
5 | 子、泣き顔。 |
6 | うれしそうな浩平。 |
7 | |
8 | ⑫元の同・工房(朝) |
9 | 一平により〝鈴木家具〟の銘が入れら |
10 | れる桐箪笥。 |
23P | 下唇をかみしめ作業の様子をじっと見 |
2 | つめる浩平。 |
3 | 一平の横で同じ用に作業している八重 |
4 | 子。 |
5 | 八重子、浩平に気づいて歩み寄る。 |
6 | 八重子「あれ? 浩平」 |
7 | 浩平に気づく一平。 |
8 | 一平「おぅ、浩平」 |
9 | 浩平「じいちゃん。俺しばらくこっちにいる |
10 | から」 |
24P | 一平、微笑みうなずくと作業に戻る。 |
2 | 八重子、半信半疑のあきれ顔。 |
3 | 八重子「ふぅん」 |
4 | 浩平、踵を返す。 |
5 | 八重子「あれ、用事は?」 |
6 | 浩平「展示会の、また相談するよ」 |
7 | 浩平、走りさる。 |
8 | |
9 | ⑬松前病院・前 |
10 | 〝松前病院〟の看板 |
25P | |
2 | ⑭同・浩介の病室 |
3 | ベッドの上、ムスっとした顔の浩介。 |
4 | ベッドの横、膝の上でノートパソコン |
5 | を操作する浩平。 |
6 | PC画面、〝鈴木家具〟のブログページ。 |
7 | 浩平「ブログを作ってみたんだけど、どうか |
8 | な」 |
9 | 浩介「展示会に出展するそうだな」 |
10 | 浩平「・・・・・・うん」 |
26P | 浩介「誰が作るんだ?」 |
2 | 浩平「・・・・・・」 |
3 | 浩介「勝手な事するんじゃない!」 |
4 | 浩平「出さなくてどうするんだよ」 |
5 | 浩介「中途半端なモノを出すなら同じだ! |
6 | 会社はどうした?」 |
7 | 浩平、浩介を見る。 |
8 | 浩平「長期休暇届けを出した。しばらく手伝 |
9 | えるよ」 |
10 | 浩介、唖然と浩平を見る。 |
27P | 浩介「手伝える事なんかないだろ」 |
2 | 浩平「・・・・・・考えるよ」 |
3 | 浩介「修行もせずにか?」 |
4 | 浩平「要領はわかるよ」 |
5 | 浩介、ため息をつく。 |
6 | 浩介「無理だ」 |
7 | 浩平、むっとした顔をする。 |
8 | 浩平「(怒りに震えた小さな声で)あんたが |
9 | 無理だ、下手だって言うから・・・・・・!」 |
10 | 浩介「なんだ? お前は・・・・・・今の会 |
28P | 社を選んだんだろ?」 |
2 | 苦い顔をする浩平。 |
3 | 浩平「上手くできたら良いのか?」 |
4 | 浩介「あぁ、上手くできていなかったら出展 |
5 | は許さない」 |
6 | 浩平、浩介をにらむ。 |
7 | 浩平「わかった。試作ができたら見せに来る」 |
8 | 浩平、勢いよく立ち上がり、ノートP |
9 | Cを持って出て行く。 |
10 | |
29P | ⑮鈴木家・前(朝) |
2 | 〝鈴木家具〟の看板。 |
3 | |
4 | ⑯同・工房(朝) |
5 | 黙々と作業をしている一平。 |
6 | 木材置き場の机にメモ用紙を広げて鉛 |
7 | 筆で図案を描き込んでいる浩平。 |
8 | メモ用紙の図案、〝・桐の腰掛け・玩 |
9 | 具箱・・・・・・〟。 |
10 | 八重子、やってくる。 |
30P | 八重子「おはようございます」 |
2 | 一平「おはよう」 |
3 | 浩平「おはよう」 |
4 | 八重子、一平の横で作業に入る。 |
5 | 浩平「八重子」 |
6 | 八重子、浩平を見る。 |
7 | 浩平「展示会、これ、出せないかな」 |
8 | 浩平、メモ用紙の図案を八重子に見せ |
9 | る。 |
10 | 八重子「浩平、帰ってくるの?」 |
31P | 浩平「会社は長期休暇をとれたんだ。おいお |
2 | い仕事を覚えるよ」 |
3 | 苛立つ八重子。 |
4 | 八重子「ふぅん」 |
5 | 八重子、浩平にメモ用紙を返し、作業 |
6 | に戻る。 |
7 | 浩平「え」 |
8 | 八重子「一平さん。今日の私の作業ですけど、 |
9 | とりあえず残りの引き出しを上げますね」 |
10 | 一平「うん」 |
32P | 一平、うなずく。 |
2 | 浩平「あのーー」 |
3 | 八重子「邪魔、そんなの自分でやりなさいよ」 |
4 | 浩平、とぼとぼ出て行く。 |
5 | |
6 | ⑰同・工房・前(朝) |
7 | 工房の入り口の側にはベンチがある。 |
8 | メモ用紙を片手に工房から出てくる浩 |
9 | 平。 |
10 | 近くの自動販売機でコーヒーを買って |
33P | ベンチに座る浩平。 |
2 | コーヒーを飲む浩平。 |
3 | 浩平、メモ用紙を見てため息をつく。 |
4 | 腰を叩きながら、工房から出てくる一 |
5 | 平。 |
6 | 一平、浩平の隣に座る。 |
7 | 一平「そろそろ長時間作業はきつくてな」 |
8 | 浩平「うん」 |
9 | 浩平、上の空。 |
10 | 一平、浩平の様子を伺見る。 |
34P | 一平「八重ちゃんは木工一筋だからな。離れ |
2 | ていた浩平への苛立ちもあるんだろう」 |
3 | 浩平、がっくりうなだれる。 |
4 | 一平「今から出るんだが・・・・・・乗せて |
5 | 行ってもらえるか?」 |
6 | 浩平、怪訝な顔。 |
7 | |
8 | ⑱中央公民館・前 |
9 | 木造の古い公民館。公民館の前には駐 |
10 | 車場がある。 |
35P | 〝鈴木家具〟のロゴが入った車が駐車 |
2 | 場に止まる。 |
3 | 〝中央公民館〟の石碑。 |
4 | |
5 | ⑲同・ロビー |
6 | 一平と浩平が入っていく。 |
7 | 一平「おはようございます。桐箪笥、鈴木家 |
8 | 具です」 |
9 | 会釈する浩平。 |
10 | 職員が窓口に出てくる。 |
36P | 職員「あぁ、おはようございます。お世話に |
2 | なります。あれ以前の人は?」 |
3 | 一平「浩介はちょっと病気で倒れてしまって」 |
4 | 職員「あぁそれでーー」 |
5 | 一平「洗濯したい桐箪笥というのはーー」 |
6 | 職員と一平が話し込む。 |
7 | 浩平、辺りを見回す。 |
8 | 受付奥には図書スペース。机と椅子が |
9 | 並んでおり、くつろげるようになって |
10 | いる。 |
37P | 浩平は木の本棚に目を止め、棚の角に |
2 | 手をのばす。 |
3 | 棚は釘が使われておらず、木のみで組 |
4 | まれている。 |
5 | しげしげと棚の作りを確認する浩平。 |
6 | 浩平「ほぞだ。古いな」 |
7 | 棚の側面を確認する浩平。 |
8 | 製造年月日表記、〝明治24年5月6日 |
9 | 鈴木紀一〟。 |
10 | 一平「おーい。運ぶから手伝ってくれ」 |
38P | 一平、浩平に歩み寄る。 |
2 | 浩平「これ銘があるよ。鈴木紀一だって」 |
3 | 一平「あぁ、先代のだな」 |
4 | 浩平「明治24年って、何年前だ?」 |
5 | 一平「百二十年ぐらいか」 |
6 | 浩平「へぇ」 |
7 | 浩平と一平、感慨深げに棚を見る。 |
8 | |
9 | ○20道 |
10 | クッション材で包まれた桐箪笥を荷台 |
39P | に積んだ〝鈴木家具〟の軽トラックが |
2 | 走る。 |
3 | |
4 | ○21走る軽トラックの中 |
5 | 運転をする浩平。助手席の一平。 |
6 | 浩平「ご先祖様だけあって、作りが似てたね。 |
7 | あんな近くにあるなんて」 |
8 | 一平「〝鈴木家具〟は百年以上続いているか |
9 | らな。そういう事もある。先代から俺が継い |
10 | で・・・・・・俺も浩介に託して、そうやっ |
40P | て技術を継承していくんだな」 |
2 | 一平、にやりと微笑む。 |
3 | 一平「そうそう、浩介も浩平が戻ってきてく |
4 | れて、嬉しいはずだよ」 |
5 | 浩平「(低い声で)そうかな?」 |
6 | 一平、うなずく。 |
7 | 一平「受け継いできたものを浩介も譲りたい |
8 | はずだ」 |
9 | 浩平「そうか」 |
10 | 浩平、神妙な顔で道の先をみる。 |
41P | |
2 | ○22鈴木家・工房(夕) |
3 | 誰もいない工房。 |
4 | 浩平がやってきて明かりをつける。 |
5 | メモ用紙の新商品の図案を見る。 |
6 | 浩平は材料となる板材を見ている。 |
7 | 帰り支度をした八重子がやってくる。 |
8 | 八重子「何やっているの?」 |
9 | 必要な長さに鋸で材を切る浩平。 |
10 | 浩平「試作を作る」 |
42P | 八重子「昼やりなよ。親方がいたら怒るよ」 |
2 | 浩平「良いだろ。別に」 |
3 | 八重子、浩平の側に座る。 |
4 | 浩平「何だよ」 |
5 | 八重子「別に。私帰るわ。お疲れ」 |
6 | 浩平「おう」 |
7 | 八重子、出て行く。 |
8 | 浩平、鋸で材を切り始める。 |
9 | 真剣な顔の浩平。 |
10 | |
43P | ○23北方家・前(早朝) |
2 | 古い木造建築。〝北方〟の表札。 |
3 | |
4 | ○24同・八重子の部屋(早朝) |
5 | 手作りの箪笥。 |
6 | 手作りのクローゼット。 |
7 | 手作りの机に手作りの椅子。 |
8 | 手作りのベッド。 |
9 | 全て鈴木家具の桐箪笥の作り方と同じ |
10 | 方法で作られている。 |
44P | ベッドで寝ているパジャマ姿の八重子。 |
2 | 八重子、目をさまして起きあがる。 |
3 | カーテンを開ける八重子。窓の外はま |
4 | だ暗い。 |
5 | 八重子、大きく延びをする。 |
6 | 八重子「さて、行くか!」 |
7 | 八重子、クローゼットを開けて、着替 |
8 | える。 |
9 | 机の上には手作りの写真立て。写真に |
10 | は一平(65)と浩介(40)と浩平(10 |
45P | )と八重子(10)が工房で撮影した写 |
2 | 真。浩平と八重子の手には小さな桐箪 |
3 | 笥が抱えられている。 |
4 | |
5 | ○25鈴木家・前(朝) |
6 | 〝鈴木家具〟の看板。 |
7 | 八重子の声「おはようございます!」 |
8 | |
9 | ○26同・工房(朝) |
10 | 八重子が工房にやってくる。 |
46P | 寝ている浩平。浩平の側にはいくつか |
2 | の試作と試作①が転がっている。浩平、 |
3 | 目をさます。 |
4 | あきれた顔の八重子。 |
5 | 八重子「なんだ浩平か。えっ、ずっとやって |
6 | たの」 |
7 | 浩平「べ、別に良いだろ」 |
8 | 不機嫌そうに工房内の試作を見渡す八 |
9 | 重子。 |
10 | 浩平「・・・・・・」 |
47P | 八重子の表情がゆるみ、笑顔がこぼれ |
2 | る。 |
3 | 八重子「そうね。良いね。あっこれかわいい」 |
4 | 浩平「あぁ、これは子供用の椅子だよ」 |
5 | 試作①をまじまじと見る八重子。 |
6 | 八重子「ふーん。やっぱり器用ね」 |
7 | 浩平「どうかな」 |
8 | 八重子「これを展示会に出展するの?」 |
9 | 浩平「父さんの許可がおりたら、そのつもり |
10 | だけど」 |
48P | 八重子、しばらく試作①を見つめた後、 |
2 | しかめっ面になり試作①を床に置く。 |
3 | 八重子「駄目」 |
4 | 浩平「は?」 |
5 | 八重子「これじゃ親方の許しが得られない」 |
6 | 浩平「なんでだよ」 |
7 | 八重子、資材置き場に行き、必要そう |
8 | な材を取り出し、机におき木目を見る。 |
9 | 八重子「だから私が作る。」 |
10 | 浩平「え?」 |
49P | 八重子「図案を見せて」 |
2 | 浩平の顔に笑顔が広がる。 |
3 | 浩平「うん」 |
4 | 浩平、八重子に図面を見せる。 |
5 | 八重子「ここ、こうしたほうが良くない」 |
6 | 浩平「え? そうかな」 |
7 | 八重子、図案に描き込む。 |
8 | 一平が入ってくる。 |
9 | 浩平と八重子を見て、ほほえむ一平。 |
10 | 生き生きとしている浩平の顔。 |
50P | |
2 | ○27松前病院・前 |
3 | 〝松前病院〟の看板。 |
4 | |
5 | ○28同・浩介の病室 |
6 | ベッドの上で体を起こそうと身をよじ |
7 | っている浩介。浩介の傍らで浩介を支 |
8 | えている安子。 |
9 | 浩平と八重子が入ってくる。浩平の手 |
10 | には段ボール箱。 |
51P | 浩介「できたか」 |
2 | 浩平、頷く。 |
3 | 浩平、段ボールを地面に置き開ける。 |
4 | 段ボールの中には試作②が入っている。 |
5 | 試作②を取り出す浩平。 |
6 | 浩介「これはいったい何だ」 |
7 | 浩平と八重子、顔を見合わせる。 |
8 | 浩平「・・・・・・子供用の椅子です。優し |
9 | い木の温もりを生かしてみようと思いました。 |
10 | 桐箪笥は敷居が高いのでもう少し木の良さを |
52P | 身近に感じてもらえればと考えました」 |
2 | 浩平、八重子から試作②を受け取り浩 |
3 | 介の前に差し出す。 |
4 | 安子の補助を受け試作②に触れる浩介。 |
5 | 浩介「別の角度からも見せてくれ」 |
6 | 浩平、試作②をゆっくり回転させる |
7 | 浩介「あぁ、八重ちゃんが作ったのか」 |
8 | 浩平と八重子、顔を見合わせる。 |
9 | 八重子「・・・・・・はい」 |
10 | 浩平「アイデアを出し合って、俺も作ったん |
53P | だけど、八重子のほうが上手いので。今は」 |
2 | 浩介、うなずく。 |
3 | 息をのむ浩平と八重子。 |
4 | 浩介ベッドに背中を戻すと微笑む。 |
5 | 浩介「これなら・・・・・・良いだろう。」 |
6 | 浩平と八重子、ハイタッチして微笑み |
7 | あう。 |
8 | |
9 | ○29さわやかホール・前 |
10 | 大通りに面したさわやかホールの入り |
54P | 口側に看板がある。 |
2 | 〝木工職人会 家具展示会〟の看板。 |
3 | |
4 | ○30同・第二多目的ホール |
5 | 桐箪笥や桐チェストの家具や新商品が |
6 | 並んでいる。和式の内装の場内に数十 |
7 | 人のバイヤー達や客達がいる。小物コ |
8 | ーナーの中に試作②、桐の子供椅子が |
9 | 置かれている。入り口側には受付。小 |
10 | 物コーナーの前には浩平が立っている。 |
55P | フランス人バイヤーと通訳、浩平の側 |
2 | に歩みよる。 |
3 | 通訳「あの聞きたい事があるのですが」 |
4 | 浩平「はい」 |
5 | バイヤーが小物コーナーの子供椅子を |
6 | 指さし、通訳にフランス語で話す。 |
7 | 通訳「あれは何ですか?」 |
8 | 浩平「子供椅子です。桐でできておりまして」 |
9 | 通訳、バイヤーとフランス語で話す |
10 | 笑顔でうなずくバイヤー。 |
56P | 通訳「フランスでウケそうな商品ですね」 |
2 | 浩平「はい」 |
3 | 笑顔の浩平。 |
4 | |
5 | ○31鈴木家・前(朝) |
6 | T、四ヶ月後 |
7 | 〝鈴木家具〟の看板。 |
8 | |
9 | ○32同・工房(朝) |
10 | 浩平が浩介に肩を貸しながら歩いて入 |
57P | ってくる。すぐ側を歩く八重子。 |
2 | 浩平「もういいの?」 |
3 | 浩介「しばらくリハビリために病院通いだ」 |
4 | 浩平「ふーん」 |
5 | 浩介「新商品、売れているそうだな」 |
6 | 浩平「うん。八重子とじいちゃんががんばっ |
7 | てくれてるよ」 |
8 | 浩介「〝鈴木家具〟を継ぐか?」 |
9 | 浩平「うん、会社はやめたし、鈴木家具の仕 |
10 | 事をしながら夜間の工芸専門学校で勉強する |
58P | よ」 |
2 | 浩介、うなずく。 |
3 | 浩介「ちょっと、そっち」 |
4 | 浩平と浩助、部屋の隅に行く。 |
5 | 浩介、工房の隅からノミと鉋を取り出 |
6 | して側の机に置く。 |
7 | 浩助を椅子に座らせる浩平。 |
8 | 心配そうな八重子 |
9 | 浩平「なにこれ?」 |
10 | 浩介「これは俺がウチを継ぐ時にじいちゃん |
59P | から譲り受けたものだ。やる。」 |
2 | 浩平「え?」 |
3 | 浩介「お前は昔から筋が良い。だからきっち |
4 | り学べ」 |
5 | 浩平「何だよ。急に……」 |
6 | 浩介、照れくさそうにしている浩平に |
7 | ノミを渡す。 |
8 | 八重子、少しうらやましそうに微笑む。 |
9 | 浩介「――それから八重ちゃんも」 |
10 | 浩介、八重子に鉋を差し出す。 |
60P | 八重子「えっ、いや受け取れません」 |
2 | 浩介、八重子の手に鉋を握らせる。 |
3 | 浩介「八重ちゃんは浩平にない資質を持って |
4 | いる。それは俺が職人にとって一番大事な才 |
5 | 能だと思っている。どうかこいつにもわかる |
6 | ように、教えてやって欲しい」 |
7 | 浩介、ほほ笑む。 |
8 | 八重子「(次第に涙声)えっ、何ですかそれ |
9 | ……急に泣かせないで……くださいよ」 |
10 | 八重子、不覚にも涙がこぼれる。 |
61P | 浩介と浩平と八重子、ほほえみあう。 |
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