.表紙 恋文 かみのほん同盟 烏野 博史 .人物表 【シナリオ】 課題 恋文 題名 かみのほん同盟 作 烏野博史 【一行テーマ】 思いを届けるにはその努力がいる。 【三行ストーリー】 思いを届ける事が下手な出版社の営業部員、土道渡(28)は望月栞(26)に恋をし、その努力をするようになる。 【人 物】 土道渡《つちみちわたる》(28)共文社・営業部員 望月栞《もちづきしおり》(26)天竜書房・店員 三宅一馬(50)共文社・営業部長 田沼隆一(28)同・営業部員 藤沢明美(40)天竜書房・店長 書店員 看護師 人 看護師達 営業部員達 客達 乗客達 営業部員達 .脚本 |
1P | ①天竜書房・前 |
2 | 【共文社】の紙袋をさげた猫背の土道 |
3 | 渡(28)、大型書店【天竜書房】の看 |
4 | 板を見上げる。 |
5 | ため息をついて書籍売場に入る土道。 |
6 | |
7 | ②同・書籍売場 |
8 | 広いフロア。カテゴリー別に書籍の棚 |
9 | が並んでいて、中には【栞の棚】があ |
10 | る。客は間ばらで奥には文具売場もあ |
2P | る。藤沢明美(40)が書店員のエプロ |
2 | ン姿で棚の整理をしている。 |
3 | 土道、紙袋を持って明美の側に歩いて |
4 | くる。 |
5 | 土道「あの・・・・・・」 |
6 | 明美、土道から離れるように棚を整理 |
7 | していく。 |
8 | 追いかける土道、紙袋から【風の人】 |
9 | フェアのお願いの資料を取り出す。 |
10 | 土道「あ、お願いが・・・・・・」 |
3P | 明美「今忙しいの」 |
2 | 土道「あの!」 |
3 | 明美「しずかにして!」 |
4 | 土道「・・・・・・すみません」 |
5 | 明美、ため息をつく。 |
6 | 土道、側にある【栞の棚】を見る。棚 |
7 | の横の宝箱の上に冒険譚関連の小説が |
8 | 置かれている。ポップ【さぁ、ひと夏 |
9 | の冒険に出かけよう】。 |
10 | 土道、一冊を手にとって見つめる。 |
4P | 明美「・・・・・・文芸書なら望月さんね。 |
2 | 今は倉庫で返品処理をしているはずよ」 |
3 | 明美、資料を土道に突き返す。 |
4 | 土道、資料を紙袋に戻す。 |
5 | 土道「はい・・・・・・」 |
6 | 申し訳なさそうに会釈する土道。 |
7 | |
8 | ③同・倉庫 |
9 | 土道、ノックをして入る。 |
10 | 薄暗い倉庫。 |
5P | いくつかの棚が並んでいる。 |
2 | 窓から光がさしている。 |
3 | 本が崩れる音。 |
4 | 栞の声「(悲鳴)」 |
5 | 棚から崩れた本と段ボールの山。本の |
6 | 間から望月栞(26)の片腕が見える。 |
7 | 土道「え」 |
8 | 土道、本の山にかけより栞の腕をひっ |
9 | ぱる。 |
10 | 栞、本の中から顔を出す。 |
6P | 土道、手を離して尻餅をつく。 |
2 | そのまま這いだし立ち上がる栞、天竜 |
3 | 書房のエプロン姿。 |
4 | 栞「いたた、ありがとうございます。本を積 |
5 | み過ぎてしまって・・・・・・大丈夫ですか?」 |
6 | 呆然と栞を見上げる土道。 |
7 | 首をかしげる栞。 |
8 | 栞「大丈夫ですかー?」 |
9 | 土道「・・・・・・あ。共文社の新しい営業 |
10 | の土道と申します」 |
7P | 尻餅をついたまま名刺を取り出して栞 |
2 | に差し出す。 |
3 | 名刺を受け取る栞。窓からの木漏れ日 |
4 | が栞を照らしている。 |
5 | 呆然と見とれる土道。 |
6 | 栞「共文社さん」 |
7 | 栞、土道を引き起こす。 |
8 | 土道、紙袋から資料を取り出す。 |
9 | 土道「あの、これを・・・・・・よろしくお |
10 | ねがいします」 |
8P | 栞、資料を受け取る。 |
2 | 栞「【風の人】フェア。書籍の特設コーナー |
3 | の設置。ん?」 |
4 | 栞、資料をのぞき込む。 |
5 | 栞「風間先生じゃないですか!」 |
6 | 表情をかがやかせて土道を見る栞、再 |
7 | び資料に視線を落とす。 |
8 | 栞「(次第にぶつぶつと)……でも難しいで |
9 | すね。時期的に……スペースもかぎられてい |
10 | ますし、でも、うまく時期をずらばなんとか |
9P | なるか? 作ろうと思っていた棚は――」 |
2 | 土道「……無理にとは」 |
3 | 栞「え?」 |
4 | 栞、怪訝な顔をあげる。 |
5 | 土道「ほら予定があれば仕方ないです……し」 |
6 | 栞、不満そうにため息をつく。 |
7 | 土道、ばつが悪そうに床の本を拾う。 |
8 | 栞「あぁ、いいですよ。やりますから」 |
9 | 栞、本を拾う。 |
10 | 書籍が積まったいくつかの返品用の段 |
10P | ボール。 |
2 | 栞「ありがとうございます」 |
3 | 土道「それじゃぁ、僕はこれで」 |
4 | 栞、笑顔で手を振る。 |
5 | 会釈して扉に手をかける土道、振り返 |
6 | る。 |
7 | 土道「あの・・・・・・」 |
8 | 栞「何でしょう?」 |
9 | 栞の笑顔。 |
10 | 土道「あ、良いです」 |
11P | そのまま一回転して、ドアの縁に肩を |
2 | ぶつけて出ていく土道。 |
3 | |
4 | ④共文社・前 |
5 | 5階立てのビル。 |
6 | 【共文社】の石碑。 |
7 | |
8 | ⑤同・営業部 |
9 | 田沼と営業部員達が各々の机で仕事を |
10 | している。部屋の中央には営業会議用 |
12P | の長机が二つ置かれている。壁には掛 |
2 | け時計。三宅の机には【風間一寸】特 |
3 | 設コーナー設置OK店舗リストの資料 |
4 | がある。 |
5 | 土道、自分の座席に大きく仰け反り座 |
6 | っている。顔の上にはハンカチを乗せ |
7 | ている。 |
8 | 怪訝な顔で土道を見る田沼。 |
9 | 三宅、ビジネス鞄を持ってやってきて |
10 | 自席にすわる。 |
13P | 三宅「田沼。【風間一寸】コーナー設置依頼 |
2 | の状況はどうだ?」 |
3 | 田沼「いやぁ、難しいですね」 |
4 | 三宅「土道は?」 |
5 | 土道「・・・・・・はい」 |
6 | 三宅「聞いているのか? 土道?」 |
7 | 土道「・・・・・・はい」 |
8 | 田沼「おい。土道どうした?」 |
9 | 土道「・・・・・・はい」 |
10 | 三宅「好きな娘でもできたか?」 |
14P | 土道、ゆっくり頷く。 |
2 | 土道「・・・・・・はい」 |
3 | 田沼、立ち上がる。 |
4 | 田沼「まじ。どんな娘?」 |
5 | 田沼、土道の顔のハンカチをとる。 |
6 | 田沼「デートに誘えば?」 |
7 | 土道「それは・・・・・・」 |
8 | 土道、がっくりうなだれる。 |
9 | 田沼「何だよ」 |
10 | 三宅、机の上の資料を見る。 |
15P | 三宅「土道。一店舗もOKもらっていないのか?」 |
2 | 土道「・・・・・・すみません」 |
3 | 三宅「やる気ないのか?」 |
4 | 土道「決してそんな事は・・・・・・」 |
5 | 三宅「【風の人】の発売は来月だぞ。新刊発 |
6 | 売のタイミングで書店にプッシュしてもらっ |
7 | て話題呼ぶんだ」 |
8 | 壁には、風の人の発売まであと【一ヶ |
9 | 月】と書かれたカウントダウン用の張 |
10 | り紙。 |
16P | 土道「はい」 |
2 | 土道、体勢を戻してノートPCに向か |
3 | う。 |
4 | 田沼、席に戻る。 |
5 | 田沼「(小声で)ラブレターはどうだ?」 |
6 | 土道、唖然と田沼を見る。 |
7 | |
8 | ⑥駅・ホーム(朝) |
9 | 土道、階段をあがってくる。土道の手 |
10 | にはメモ帳。 |
17P | 歩きながらメモ帳に文章を書き進める |
2 | 土道。 |
3 | 土道の声「ごぶさたしております。共文社の |
4 | 土道渡と申します。お見苦しい所もあるとお |
5 | もいますが――」 |
6 | 土道、向こう側からやってきた人にぶ |
7 | つかり落としたメモ帳を蹴る。 |
8 | 土道「すみません」 |
9 | 土道、拾おうとメモ帳のほうへ走る。 |
10 | 土道、立ち止まる。 |
18P | メモ帳を拾う栞、私服姿。鞄を持って |
2 | いる。 |
3 | 栞、土道を見る。 |
4 | 土道、栞からメモ帳を受け取る。 |
5 | 土道「・・・・・・ありがとうございます」 |
6 | 栞「ん?」 |
7 | 栞、土道の顔をのぞきこむ。 |
8 | 土道、右に視線をはずす。 |
9 | 栞、右から土道の顔をのぞき込む。 |
10 | 土道、左に視線をはずす。 |
19P | 栞「あ! 共文社の! えーと・・・・・・」 |
2 | 土道「土道です。」 |
3 | 栞「あぁ! (改まって)おはようございま |
4 | す」 |
5 | 栞、笑顔で頷き、お辞儀をする。 |
6 | 土道「おはようございます」 |
7 | 土道、お辞儀をする。 |
8 | 栞「それは・・・・・・」 |
9 | 土道、メモ帳を背中に隠す。 |
10 | 栞「ビジネスメールの下書きですね」 |
20P | 自信満々の栞。 |
2 | がっくりする土道、メモ帳を鞄にしま |
3 | う。 |
4 | 土道「・・・・・・はい」 |
5 | 電車がやってくる。 |
6 | |
7 | ⑦走る電車の中(朝) |
8 | 吊革を持って立っている土道と栞。乗 |
9 | 客達を見る栞。スマートフォンを見て |
10 | いる乗客達。 |
21P | 土道「なぜここに・・・・・・?」 |
2 | 栞「病院に行ってたんです」 |
3 | 栞、窓の外を指さす。 |
4 | 窓の外、吉野病院の建物と看板が見え |
5 | る。 |
6 | 土道「あ……僕も行きます」 |
7 | 栞「そういえば……」 |
8 | 栞、鞄から資料を取り出す。 |
9 | 栞「【風間一寸】先生!」 |
10 | 土道「え?」 |
22P | 栞「面白いですよね! 本格ミステリー!」 |
2 | 土道、うれしそうに頷く。 |
3 | 土道「……はい」 |
4 | 栞、不満気な顔。 |
5 | 栞「それじゃ風間作品の良さを知らない書店 |
6 | 員には伝わりませんよ。」 |
7 | 土道「・・・・・・すみません」 |
8 | 微笑む栞。 |
9 | 栞「そうだ。またうちに来てください」 |
10 | 土道「え・・・・・・」 |
23P | 電車が揺れる。体勢を崩した土道、メ |
2 | モ帳を落とす。 |
3 | メモ帳を拾おうとして頭をぶつける土 |
4 | 道と栞。 |
5 | |
6 | ⑧天竜書房・書籍売場(夜) |
7 | レジには書店員、フロアには客がまば |
8 | らにいる。書店員用エプロン姿の栞は |
9 | 棚の整理をしている。 |
10 | 土道、やってくる。 |
24P | 栞、土道に気づく。 |
2 | 栞「土道さん」 |
3 | 土道と栞、【栞の棚】の前にやってく |
4 | る。 |
5 | 栞「じゃーん。私の棚」 |
6 | 土道「あぁ」 |
7 | 【栞の棚】、【風間一寸】の【迷惑な |
8 | 他人】が置かれている。 |
9 | 客がやってくる。 |
10 | 栞、土道をおして棚から離れる。 |
25P | 栞のポップを見ている客、本を手に取 |
2 | りレジに歩いていく。 |
3 | 土道、栞を伺いみる。 |
4 | レジで商品を購入する客。 |
5 | 栞、嬉しそうにガッツポーズをとる。 |
6 | 書店員「ありがとうございました」 |
7 | 栞「ありがとうございました!」 |
8 | 土道と栞、【栞の棚】の前に戻る。 |
9 | 栞「自分がおすすめした本が売れる時が至福 |
10 | の時間ですね」 |
26P | 土道「・・・・・・」 |
2 | 土道、棚のポップを触る。 |
3 | 栞「私が考えたんです」 |
4 | 土道、栞を見る。 |
5 | 栞「ここを通ったお客さんに届くように、読 |
6 | む人の顔を想像して書くんです。」 |
7 | 土道、メモ帳を取り出して書く。 |
8 | 栞、土道の様子を見てにんまり笑う。 |
9 | 栞「紙の本同盟ですね」 |
10 | 土道「え?」 |
27P | 栞「風間先生から営業の土道さん。土見さん |
2 | から私達書店員。そしてお客さまへお届けす |
3 | る」 |
4 | 土道「あの……また来て良いですか?」 |
5 | 栞「はい」 |
6 | 土道、嬉しそう。 |
7 | |
8 | ⑨共文社・前 |
9 | 【共文社】の石碑。 |
10 | |
28P | ⑩同・営業部 |
2 | 土道と三宅と田沼と営業部員達、長机 |
3 | を二つ並べて取り囲むように座ってい |
4 | る。机の上にはノートPCと書店の特 |
5 | 設コーナー設置状況をまとめたリスト。 |
6 | カウントダウンの張り紙、風の人発売 |
7 | まであと【18日】。 |
8 | リストを見てしかめっ面の三宅。 |
9 | 土道と田沼、顔を見合わせる。 |
10 | 三宅「土道、最近よくやってるじゃないか。」 |
29P | 土道「地方にも当たって見ようと思います。」 |
2 | 三宅「経費は出んぞ。」 |
3 | 土道「連絡をとってみます」 |
4 | 三宅「わかった。やってみろ」 |
5 | 田沼、土道に耳打ちする。 |
6 | 田沼「(小声)どうしたの土道ちゃん。良い |
7 | 事あった?」 |
8 | 土道「(小声)・・・・・・はい」 |
9 | 土道、嬉しそうにうなずく。 |
10 | |
30P | ⑪天竜書房・書籍売場(夕) |
2 | スーツ姿の土道と私服姿の栞、並んで |
3 | 歩いている。 |
4 | 栞「【風間一寸】作品の多くは好きな本でも |
5 | あるのでオススメしやすいですね。フェアの |
6 | 状況はどうですか?」 |
7 | 土道「・・・・・・難航しています。地方の |
8 | 書店にはお願いのメールを出そうかと思いま |
9 | す」 |
10 | 栞「メール・・・・・・?」 |
31P | 土道「どうしました?」 |
2 | 栞「届ける努力を惜しんじゃ駄目です」 |
3 | 土道「届ける・・・・・・努力」 |
4 | 栞「はい」 |
5 | 栞、笑顔で頷く。 |
6 | |
7 | ⑫同・文房具店(夕) |
8 | 手紙用品が置かれている棚を見ている |
9 | 栞。裏側の棚を確認している土道。 |
10 | 栞、便せんと封筒を手にとり、土道に |
32P | 見せる。 |
2 | 栞「手紙のが良いですよ。ほら、これなんか |
3 | 風間作品のイメージにもピッタリ!」 |
4 | 土道、封をするためのシールを見てい |
5 | る。 |
6 | 恋文用の便せん。 |
7 | 土道、便せんを手にとる。 |
8 | 栞「良いのありました?」 |
9 | 栞、土道に歩み寄る。 |
10 | 土道、慌てて便せんを戻したせいで、 |
33P | いくつかの商品を落とす。 |
2 | 土道「す、すみません」 |
3 | 土道と栞、商品を拾う。 |
4 | |
5 | ⑬共文社・営業部 |
6 | 各々、営業部員達が仕事をしている。 |
7 | 長机の前で文具屋の買い物袋を持って |
8 | 立っている土道。長机には封筒と便箋 |
9 | と封用のシールの束。長机の横には封 |
10 | 筒搬送用のワゴン。 |
34P | 買い物袋を机の脇に置く土道。 |
2 | 土道、長机で便箋に手紙を書き始める。 |
3 | 壁の掛け時計は10時を指している。 |
4 | |
5 | ⑭同・営業部(早朝) |
6 | 壁の掛け時計は4時を指している。 |
7 | 手紙を書き終えてボールペンを机に置 |
8 | く土道。 |
9 | 土道、最後の手紙をワゴンに乗せる。 |
10 | 土道の顔、満足気。 |
35P | ワゴンを押す土道。 |
2 | 長机の上を片づけている土道。 |
3 | 土道、机の脇に置かれた買い物袋を見 |
4 | る。 |
5 | 買い物袋の中、恋文用に買った便箋な |
6 | どが入っている。 |
7 | |
8 | ⑮安井荘・前(朝) |
9 | レトロな木造アパート【安井荘】。安 |
10 | 井荘の前には坂道になっている。 |
36P | ドアの窓ガラスには【安井荘】と書か |
2 | れている。 |
3 | |
4 | ⑯同・土道の部屋・居間(朝) |
5 | 本棚がいくつかあって本が詰まってい |
6 | る。 |
7 | パジャマ姿のまま文机に向かう土道。 |
8 | 文机の上には恋文用の便箋。 |
9 | 真剣な顔で文章を書いている土道。 |
10 | 土道「相手に届くように、相手が読んだ時の |
37P | 顔を想像して、書く。」 |
2 | 筆を走らせる土道。 |
3 | 封筒には【望月栞様へ】と書かれてい |
4 | る。 |
5 | 猫が入ってきて土道の膝元にすりよる。 |
6 | 土道「これを店長さんに・・・・・・いや」 |
7 | 猫をなでる土道。 |
8 | |
9 | ⑰天竜書房・前(夜) |
10 | スーツ姿の土道が鞄を持って立ってい |
38P | る。 |
2 | リュックを背負った私服姿の栞、店か |
3 | ら出てきて、立ち止まる。 |
4 | 栞「土道さん、どうしました?」 |
5 | 栞に歩みよる土道、ポケットから封筒 |
6 | をとりだして、ちゅうちょしながら、 |
7 | 栞に差し出す。 |
8 | 土道「・・・・・・どうぞ」 |
9 | 土道から封筒を受け取る栞。 |
10 | まじまじと封筒を見る栞。 |
39P | 栞「見ても?」 |
2 | 土道「あっ」 |
3 | 土道、封を開けようと制止する。 |
4 | 土道「・・・・・・あとで読んでください。」 |
5 | 土道、いそいそと立ち去る。 |
6 | 道の向こう側で、土道が道ゆく人にぶ |
7 | つかって頭を下げている。 |
8 | 栞、封筒を透かしてみようとする。 |
9 | |
10 | ⑱駅・ホーム(夜) |
40P | 電車を待つ栞。電車がやってくる。 |
2 | |
3 | ⑲走る電車の中(夜) |
4 | 椅子に座っている栞。 |
5 | リュックから封筒を取り出す栞。 |
6 | 栞、封を切り取り出した手紙を開く。 |
7 | 手紙を読む栞。 |
8 | 窓の外に雨がふりはじめる。 |
9 | 手紙を読み終える栞、手紙を封筒にし |
10 | まうと、リュックに納める。 |
41P | 窓の外に目をやる栞、陰鬱な笑顔。 |
2 | |
3 | ⑳共文社・営業部 |
4 | 【風の人】、発売まであと【0日】と |
5 | 書いた張り紙。各々の机で仕事をして |
6 | いる角野と田沼と営業部員達。 |
7 | ノートPCで売り上げ状況を確認する |
8 | 土道。 |
9 | 土道を見つめる田沼。 |
10 | 田沼「最近がんばってるな。やっぱり何かあ |
42P | ったか?」 |
2 | 土道「いえ何も・・・・・・(低い声で)ま |
3 | ったく」 |
4 | 田沼「え?」 |
5 | 土道「外回りにいってきます」 |
6 | 田沼「あぁ、いってらっしゃい」 |
7 | 土道、弱々しく微笑んで出て行く。 |
8 | |
9 | ○21安井荘・前 |
10 | 屋根に滴る雨の水滴。 |
43P | カエルの鳴き声。 |
2 | 地面には水たまりができている。 |
3 | |
4 | ○22同・土道の部屋・居間 |
5 | 土道の文机の上には恋文用の便箋が十 |
6 | 数枚置かれている。猫がやって机にの |
7 | り便箋を落とす。 |
8 | 便箋。【お元気ですかーー】 |
9 | 便箋。【どうしていますかーー】 |
10 | 便箋。【最近見ないですがーー】 |
44P | どの便箋も書きかけ。 |
2 | |
3 | ○23天竜書房・前 |
4 | スーツ姿で天竜書房を見上げている土 |
5 | 道、店内に入っていく。 |
6 | 【天竜書房】の看板。 |
7 | |
8 | ○24同・書籍売場 |
9 | 土道、入ってきて、エプロン姿の明美 |
10 | に歩み寄る。 |
45P | 土道「あの」 |
2 | 明美「あら、えーと」 |
3 | 土道「土道です。共文社の」 |
4 | 土道、明美に促されて歩く。 |
5 | 上機嫌の明美。 |
6 | 明美「冗談よ! 【風の人】売れてるわよ! |
7 | 皆面白いって!」 |
8 | 客の入りを観察している土道 |
9 | 土道「・・・・・・そうですか」 |
10 | 明美「コーナー設置は正解だったわね」 |
46P | 【栞の棚】近くにやってくる土道と明 |
2 | 美。 |
3 | 【栞の棚】、【風間一寸】の特設コー |
4 | ナが設置されている。 |
5 | 土道、キョロキョロとあたりを見回す。 |
6 | 土道「・・・・・・望月さんはおられますか?」 |
7 | 明美「栞ちゃん?」 |
8 | 土道「はい」 |
9 | 明美「たしか病院に行くとか」 |
10 | 土道「・・・・・・え」 |
47P | 明美「なんとかって病気だとか」 |
2 | 土道「・・・・・・ありがとうございます。 |
3 | (どもりながら)ちょっとすみません」 |
4 | 土道、明美に会釈すると、小走りで立 |
5 | ち去る。 |
6 | 明美「あらあら」 |
7 | にやりと微笑む明美。 |
8 | |
9 | ○25吉野病院・前 |
10 | 【吉野病院】の看板。 |
48P | |
2 | ○26同・ナースステーション |
3 | 急ぎ足でナースステーションに向かう |
4 | 土道。 |
5 | ナースステーションでは看護師と看護 |
6 | 師達が各々の仕事をしている。 |
7 | 土道「あの・・・・・・」 |
8 | 看護師「こちらに望月さんが入院していると |
9 | 聞いたのですが」 |
10 | 真剣な顔の土道。 |
49P | 看護師、看護師達と顔を見合わせる。 |
2 | 看護師「406号室の望月さんなら、先日亡 |
3 | くなりましたよ」 |
4 | 愕然とする土道。 |
5 | 土道「・・・・・・わかりました」 |
6 | 看護師「あの、大丈夫ですかーー」 |
7 | 土道「・・・・・・はい」 |
8 | 土道、ふらふらと出て行く。 |
9 | |
10 | ○27安井荘・前 |
50P | 坂道をとぼとぼとおりてくる土道。 |
2 | 土道、アパートの前で頭を抱えこんで |
3 | 座り込む。 |
4 | 土道「栞さん・・・・・・」 |
5 | アパートから猫が出てきてすり寄って |
6 | くる。 |
7 | 土道から離れて道に出る猫。 |
8 | 栞、スーツケースを転がしてやってく |
9 | る。 |
10 | 土道「(絞り出すように)栞さん!」 |
51P | 栞「はい」 |
2 | 土道、顔をあげる。 |
3 | スーツケースを片手に栞が立っている。 |
4 | 土道「なんで・・・・・・」 |
5 | 栞「うち、そこなんです」 |
6 | 栞、斜め向かい奥側の家を指をさす。 |
7 | 栞「土道さんはどうしてここに?」 |
8 | 土道、アパートを見る。 |
9 | 土道「・・・・・・うちです」 |
10 | 栞「なるほど」 |
52P | 栞、笑顔で頷く。 |
2 | 土道「病気・・・・・・大丈夫なんですか?」 |
3 | 栞、首をかしげる。 |
4 | 土道「吉野病院で、・・・・・・亡くなった |
5 | と・・・・・・」 |
6 | 栞「誰がそんな事を?」 |
7 | 土道「天竜書店の藤沢さんから病気で入院し |
8 | てると聞いて・・・・・・吉野病院を訪ねた |
9 | んです」 |
10 | 栞「店長が? おかしいですね」 |
53P | 考え込む栞。 |
2 | 怪訝な表情の土道。 |
3 | 栞「あぁ、入院してたのは祖父なんです。」 |
4 | 土道「え・・・・・・あ、ご愁傷さまです」 |
5 | 栞「いえ、大往生だと思います」 |
6 | 土道「・・・・・・今までどこへ?」 |
7 | 栞「今の時期は毎年、【風間一寸】の小説の |
8 | 舞台となった聖地へ巡礼に行く事にしている |
9 | んです。」 |
10 | 土道「えぇ!?」 |
54P | 栞「心配かけたみたいで、すみません」 |
2 | 栞、ふかぶかと頭を下げる。 |
3 | 土道「いえ! ・・・・・・よかったです」 |
4 | 土道、立ち上がり安心した顔。 |
5 | 土道を見て微笑む栞。 |
6 | 栞「謎が解けたみたいですね。ところで土道 |
7 | さん」 |
8 | 土道「・・・・・・はい?」 |
9 | 栞、ポケットから土道の手紙を取り出 |
10 | す。 |
55P | 栞「これ。くれましたよね」 |
2 | 土道「・・・・・・はい」 |
3 | 栞「はやくお返事をとも思ったのですが」 |
4 | 土道「・・・・・・」 |
5 | 栞「やはり土道さんの口から直接聞きたいで |
6 | す」 |
7 | 土道「・・・・・・え?」 |
8 | つんとすます栞。 |
9 | たじろぐ土道。 |
10 | ため息をつき、そっぽをむく栞。 |
56P | うろたえる土道。 |
2 | 土道「・・・・・・好きです」 |
3 | 栞の横顔に嬉しそうな笑みが広がる。 |
4 | 栞「私もです」 |
5 | 土道を見てにっと微笑む栞。 |
6 | |
7 | ○28共文社・前 |
8 | 【共文社】の石碑。 |
9 | |
10 | ○29同・営業部 |
57P | 土道と三宅と沼田と営業部員たち、二 |
2 | つの長机を取り囲んでいる。ノートP |
3 | Cで売り上げ資料を見ている三宅。 |
4 | 三宅、親指をたてる。 |
5 | 沼田と営業部員達、歓声をあげる。 |
6 | ガッツポーズをとる沼田 |
7 | 沼田「よっしゃー! 増刷だ!」 |
8 | うれしそうな土道。 |
9 | |
10 | ○30走る電車の中(夕) |
58P | 座席は乗客達で適度に埋まっている。 |
2 | 【風の人】を読んでいる乗客が座って。 |
3 | 吊革を持って立っているスーツ姿の土 |
4 | 道。 |
5 | 土道、乗客をちらりと見る。 |
6 | 【風の人】を読んでいる乗客。 |
7 | 土道の口角があがる。 |
8 | |
9 | ○31駅前(夜) |
10 | 薄暗がりでポツポツと街灯がついてい |
59P | る。 |
2 | 改札から出てくる土道、立ち止まる。 |
3 | 私服姿の栞が立っている。 |
4 | 土道、栞に歩みよる。 |
5 | 土道「待ちましたか」 |
6 | 栞「いーえ」 |
7 | 栞、頭を振る。 |
8 | 土道、微笑む。 |
9 | 栞、微笑む。 |
10 | 土道と栞、並んで坂道を下る。 |
60P | 土道「あっ【風の人】重版かかりました」 |
2 | 栞「えっ、発注しないと、押さえておいてく |
3 | ださいよ」 |
4 | 土道「【風間一寸】先生のサイン会も開こう |
5 | と思うんです」 |
6 | 栞「ぜひ天竜書房でしましょう! あわゆく |
7 | ばサイン本をください!」 |
8 | 土道「書店員さんは難しいかもしれません」 |
9 | 栞「えぇ!」 |
10 | うなだれる栞。 |
61P | 微笑む土道と栞の頭上を月の光が照ら |
2 | す。 |
3 | |
4 |