.表紙 献身 不安定な空 烏野 博史 .人物表 【シナリオ】 課題 献身 題名 不安定な空 作 烏野博史 【一行テーマ】 信頼する人が信じてくれると希望を持てる。 【三行ストーリー】 仙石譲(42)が顧問をしている陸上部の中川三砂(17)はその左足と一緒に目標を見失った。仙石は三砂の復活のために奮闘する。 【人 物】 仙石譲(42~41)北山高校・陸上部・顧問 中川三砂(17~16)北山高校・陸上部 中川良子(43)三砂の母 折口寛太(35)理学療法司 三戸直人(28)ランナー 永井富雄(55)丸山病院・医者 安田浩介(55)リハビリセンタ・医者 新田友彦(17)北山高校・陸上部 女子部員 教師 選手A 入所者A 入所者B 入所者C 陸上部員達 入所者達 選手達 教師達 .脚本 |
1P | ①丸中中央病院・前 |
2 | 〝丸中中央病院〟の看板。空には黒い |
3 | 雲がかかっている。 |
4 | |
5 | ②同・診察室 |
6 | 中川三砂(17)と中川良子(43)が永 |
7 | 井富雄(55)と向き合って座っている。 |
8 | 永井の机のライトテーブルがあり、三 |
9 | 砂の左足のX線写真がかけられている。 |
10 | 永井「骨肉腫です」 |
2P | 三砂と良子、顔を見合わせる。 |
2 | 良子「それはどういう・・・・・・」 |
3 | 永井「三砂さんの左足を切断しなければなり |
4 | ません」 |
5 | 良子、そっと三砂を伺いみる。 |
6 | 三砂、頭をふる。 |
7 | |
8 | ③北山高校・前 |
9 | 〝北山高校〟の看板。 |
10 | 陸上部員達の声「(かけ声)いち、に、さん、 |
3P | し、えい、オーウェイ!」 |
2 | 仙石の声「こぉらぁ! もっと声を出さんか |
3 | い!」 |
4 | |
5 | ④同・グラウンド |
6 | グラウンド脇の木々は青々と茂ってい |
7 | る。新田友彦(17)と女子部員と陸上 |
8 | 部員達がトラックを走っている。スト |
9 | ップウォッチと竹刀を持った仙石譲(4 |
10 | 2)がトラック脇に立っている。 |
4P | 仙石「遅い! あと20秒以内に戻ってこれな |
2 | ければ5週追加! 15、14――」 |
3 | 悲鳴をあげる陸上部員達。 |
4 | グラウンドの時計。 |
5 | バラバラと仙石の前に走ってくる陸上 |
6 | 部員達。 |
7 | 仙石、部員達を見回す。 |
8 | 仙石「新田、中川はどうや?」 |
9 | 新田、肩で息をしながら仙石に歩みよ |
10 | る。 |
5P | 新田「今日は見てません」 |
2 | 仙石「そうか」 |
3 | 教師がやってくる。 |
4 | 教師「仙石先生! お電話です」 |
5 | 仙石「はい! いまいきます!」 |
6 | 仙石、走っていく。 |
7 | |
8 | ⑤同・職員室 |
9 | 職員室には数人の教師達がいる。 |
10 | 仙石、教師に促され受話器を手に取る。 |
6P | 仙石「はい。陸上部顧問の仙石です」 |
2 | 良子の声「中川三砂の母です。」 |
3 | 仙石「あぁ、お世話になっています。どうで |
4 | す中川は?」 |
5 | 良子の声「手術をしました・・・・・・しば |
6 | らくお休みを頂く事になります」 |
7 | 仙石「そうですか。あの、来月の近畿大会の |
8 | 出場は難しいですか?」 |
9 | 良子の声「(ため息)」 |
10 | 仙石「お母さん?」 |
7P | 良子の声「・・・・・・足を切断したので、 |
2 | 陸上を続ける事ができないんです」 |
3 | 仙石、受話器を落とす。 |
4 | 良子の声「先生? 先生?」 |
5 | 仙石、呆然と立ち尽くす。 |
6 | |
7 | ⑥丸中中央病院・三砂の病室・前 |
8 | T.一週間後 |
9 | 仙石と良子が廊下を並んで歩いてくる。 |
10 | 仙石の早歩きに必死に追いつく良子。 |
8P | 仙石の手には果物の詰め合わせ。 |
2 | 良子「少しでも残せば、肺に転移する可能性 |
3 | が高いらしくてやむなく・・・・・・」 |
4 | 良子、うなだれる。 |
5 | 仙石「大丈夫です。元気をだしてください」 |
6 | 仙石と良子、病室の前にやってくる。 |
7 | 仙石、ドアに手をかける。 |
8 | 〝中川三砂〟の表札。 |
9 | |
10 | ⑦同・三砂の病室 |
9P | 二人部屋。ベッドがカーテンで仕切ら |
2 | れている。ベッドに横たわっているパ |
3 | ジャマ姿の三砂。ベッド脇のパイプ椅 |
4 | 子に座る永井。三砂の隣のベッドは空。 |
5 | 永井、笑う。 |
6 | 永井「術後の経過はよさそうだ」 |
7 | 三砂、愛想笑いで会釈。 |
8 | 永井「また切断端の皮膚を鍛えないとね、ま |
9 | ずはやわらかい枕でたたくんだ」 |
10 | 永井、枕を持ち上げて叩く真似をする。 |
10P | 永井「義足を使ったリハビリをすればまた歩 |
2 | けるようになるよ」 |
3 | 三砂、下唇をかみ、布団を握りしめる。 |
4 | 永井「……お大事に」 |
5 | 永井、立ち上がりドアに向かう。 |
6 | 仙石、ドアから入ってくる。 |
7 | 仙石「おぉ、もしかして中川の先生ですか! |
8 | ? お世話になってます!」 |
9 | 仙石、永井に握手する。 |
10 | 永井「あぁ。はい」 |
11P | 良子、入ってくる。 |
2 | 良子「陸上部の先生です」 |
3 | 永井「それでは私はこれで失礼します」 |
4 | 永井、会釈して出ていく。 |
5 | 仙石、カーテンをあける。 |
6 | 仙石「よぅ! 元気か!」 |
7 | 三砂「先生」 |
8 | 仙石、果物の詰め合わせを棚の上にお |
9 | く。 |
10 | 仙石「うちの部員達からや」 |
12P | 三砂「ありがとう――」 |
2 | 仙石、布団をとる。 |
3 | 良子、身を乗り出す。 |
4 | 良子「ちょっと先生」 |
5 | 三砂の左足、膝から下がなく、腫れを |
6 | おさえるための包帯が巻かれている。 |
7 | 仙石「本当に切断したんやな」 |
8 | 仙石、布団をかぶせて、パイプイスに |
9 | 座り、のけぞるように天井をみる。 |
10 | 仙石「近畿大会は棄権や。良いな」 |
13P | 三砂「・・・・・・はい」 |
2 | 仙石、三砂の頭をグチャグチャとなで |
3 | る。 |
4 | 仙石「中川、お前は大丈夫や」 |
5 | 仙石、良子に会釈して、出ていく。 |
6 | 三砂、布団に突っ伏す。 |
7 | |
8 | ⑧心身障害リハビリセンタ・前 |
9 | 〝心身障害リハビリセンター〟の看板。 |
10 | 入り口のそばにベンチがある。 |
14P | |
2 | ⑨同・リハビリルーム |
3 | リハビリの器具がそろえられている。 |
4 | 入所者Aと入所者Bと入所者Cと入所 |
5 | 者達がトレーニングをしている。 |
6 | 仮義足をつけて平行棒の手すりをつか |
7 | んで立っている三砂。折口寛太(35) |
8 | が少し離れた所で三砂を見ている。 |
9 | 三砂、バランスをとりながら手すりを |
10 | 離す。 |
15P | 三砂、平行棒の橋までよたよた歩きき |
2 | り、手すりをつかむ。 |
3 | 折口「すごい。部活で鍛えてただけある」 |
4 | 折口、拍手。 |
5 | 三砂、はにかむが、足元の仮義足を見 |
6 | て、すっと表情が消える |
7 | 三砂、仮義足に触れる。 |
8 | 三砂、辺りを見回す。 |
9 | マットで床から立ち上がろうとしてい |
10 | る入所者A。 |
16P | 平行棒で歩行訓練をしている入所者B。 |
2 | 脚のストレッチを受けている入所者C。 |
3 | 折口「中川さん?」 |
4 | 三砂「私は・・・・・・」 |
5 | 折口、三砂を見ている。 |
6 | 三砂「何でもありません」 |
7 | 折口、腕時計を見る。 |
8 | 折口「今日はこれまでにしておこう。空いた |
9 | 時間の筋トレ。がんばって」 |
10 | 三砂「はい」 |
17P | 折口、三砂の松葉杖をとるために背中 |
2 | を向ける。 |
3 | 三砂「(ぼそりと)私は何でこんな事してる |
4 | んや?」 |
5 | 三砂、浮かない顔。 |
6 | |
7 | ⑩長尾公園陸上競技場・前 |
8 | 〝全国高等学校陸上競技大会 近畿ブ |
9 | ロック 会場〟の看板。 |
10 | 仙石と新田と女子部員と陸上部員達が |
18P | 帰り支度をしている。 |
2 | 落ち込む女子部員。 |
3 | 女子部員「中川さんがいたら女子ももうちょ |
4 | っといけたのになぁ」 |
5 | 新田「中川どうしてるかな?」 |
6 | 仙石「中川のリハビリセンターの近くやな」 |
7 | 新田「見舞いにいこうぜ」 |
8 | 仙石「・・・・・・まぁ。良いやろ」 |
9 | 新田と女子部員、ハイタッチ。 |
10 | |
19P | ⑪心身障害リハビリセンタ・三砂の部屋(夕) |
2 | 松葉杖をついた三砂、窓の外をみてい |
3 | る。窓の外、リハビリルームが見える。 |
4 | 三砂、ため息をついてベッドに腰掛け |
5 | る。 |
6 | ノックの音。 |
7 | 三砂「はい」 |
8 | 仙石と陸上部員たちが入ってくる。 |
9 | 三砂「みんな、なんで」 |
10 | 新田「大会の帰りや」 |
20P | 女子部員「見舞いにきたよ」 |
2 | 仙石、窓の外をのぞく。 |
3 | 仙石「良いやないか! ここからリハビリが |
4 | 見られる」 |
5 | 時計。 |
6 | 新田「俺、全国大会出場決定」 |
7 | 新田、ガッツポーズ。 |
8 | 三砂「・・・・・・」 |
9 | 女子部員「もうヘロヘロだよ」 |
10 | 三砂「・・・・・・」 |
21P | 陸上部員B「こいつ着替え忘れたんやで」 |
2 | 三砂「・・・・・・」 |
3 | 女子部員「男子ちょうとうるさい」 |
4 | 陸上部員たち、笑う。 |
5 | 三砂「ーー帰って」 |
6 | 「え?」 |
7 | 三砂「帰ってや! 私にはもう関係のない事 |
8 | なんやから!」 |
9 | 陸上部員たち、総立ち。 |
10 | 三砂、松葉杖で立ち上がり、陸上部員 |
22P | 達を追い立てる。 |
2 | 三砂「さぁ、はやく!」 |
3 | 仙石「おい。落ち着け」 |
4 | 三砂「先生も! 私はもう走りたくないねん!」 |
5 | 三砂、憤怒の形相。 |
6 | 仙石と陸上部員、おずおずと部屋を出 |
7 | ていく。 |
8 | |
9 | ⑫同・三砂の部屋・前 |
10 | 折口が歩いている。 |
23P | 三砂の声「出てって! 早く!」 |
2 | 折口、声のほうを見る。 |
3 | 仙石と陸上部員、三砂の部屋から出て |
4 | くる。 |
5 | 新田、不安気な顔。 |
6 | 新田「俺、悪い事いったかな?」 |
7 | 女子部員「う・・・・・・ん」 |
8 | 仙石、ドアを見つめる。 |
9 | 仙石「さぁ。帰るぞ陸上部――」 |
10 | 折口「あの」 |
24P | 仙石、折口をみる。 |
2 | |
3 | ⑬同・リハビリルーム・前 |
4 | 仙石と折口が並んでリハビリルームを |
5 | みている。 |
6 | 仙石「中川のリハビリの先生?」 |
7 | 折口「はい」 |
8 | 仙石「中川はどうですか?」 |
9 | 折口「最初は意欲的に訓練していたんですが」 |
10 | 仙石「はぁ」 |
25P | 折口「ここ数日で、訓練をサボるようになり |
2 | ました」 |
3 | 仙石、笑う。 |
4 | 仙石「まさか。中川が?」 |
5 | 折口「精神的なケアが重要になってきます。 |
6 | 何か心あたりは?」 |
7 | 仙石「そんなはずはありません。部活でもあ |
8 | んなに熱心に・・・・・・」 |
9 | 折口「熱心だから絶望も大きかったのでしょ |
10 | う。」 |
26P | 仙石「・・・・・・」 |
2 | 折口「訓練の間があくと、歩き方を忘れてし |
3 | まいます。何か良い方法がわかれば教えてく |
4 | ださい」 |
5 | 仙石「わかりました。よろしくお願いします」 |
6 | 仙石、頭をさげる。 |
7 | |
8 | ⑭北山高校・体育教官室(夜) |
9 | ビデオカメラとテレビをつながれてい |
10 | る。 |
27P | テレビを見ている仙石。仙石はノート |
2 | とペンをもっている。 |
3 | テレビには陸上部員が走っている姿。 |
4 | 仙石、ノートにペンを走らせる。 |
5 | 仙石「やる気がない・・・・・・か」 |
6 | 仙石、ペンを机の上におき、棚からD |
7 | VDを取り出す。 |
8 | DVDのラベル、〝第67回 近畿高 |
9 | 校総体陸上競技大会〟。 |
10 | 仙石、DVDをカメラにいれて早回し。 |
28P | テレビに三砂が走る姿が映る。 |
2 | |
3 | ⑮(回想)同・グラウンド(夕) |
4 | 仙石譲(41)、体育教官室から出てき |
5 | て、グラウンドを見渡し舌打ちする。 |
6 | 仙石「あいつら、逃げたか」 |
7 | 左足がある中川三砂(16)、走ってグ |
8 | ラウンドに入ってくる。 |
9 | 三砂、ゆっくりとトラックをジョグし |
10 | て立ち止まる。 |
29P | 息をつく三砂。 |
2 | 仙石、グラウンドに歩いてくる。 |
3 | 仙石「あいつらはどうした?」 |
4 | 三砂「あぁ、用事があるとかで、なんか帰り |
5 | ました。それより先生、他に練習メニューあ |
6 | りませんか? もっと速くなりたいんです」 |
7 | 仙石「休むのもトレーニングだ」 |
8 | 仙石、笑う。 |
9 | |
10 | ⑯同・元の体育教官室(夜) |
30P | テレビを見る仙石。 |
2 | ビデオの電源を落とす。 |
3 | 仙石「走りたくない? 嘘や」 |
4 | 仙石、立ち上がる。 |
5 | |
6 | ⑰リハビリセンタ・三砂の部屋(夜) |
7 | 三砂が布団をかぶりベッドで仰向けに |
8 | 寝ている。 |
9 | 額に手をのせている三砂。三砂の目、 |
10 | 涙を流して見開かれている。 |
31P | 三砂「痛い」 |
2 | 三砂、顔をゆがめて左足をおさえる。 |
3 | |
4 | ⑱中川家・三砂の部屋(夜) |
5 | 本棚には短距離~中距離走のトロフィ |
6 | ーが並んでいる。 |
7 | 壁には半紙が貼られている。 |
8 | 半紙の文字、〝目標 インターハイ優 |
9 | 勝 中川三砂〟。机の上にランナー姿 |
10 | の三砂(16)がピースをしている写真。 |
32P | |
2 | ⑲北山高校・グラウンド |
3 | 新田と女子部員と陸上部員達がインタ |
4 | ーバル走をしている。大きなタイマー |
5 | の前にたっている仙石。 |
6 | 仙石「おい。遅れるなぁ! ん?」 |
7 | 陸上部員達の走っているほう、フェン |
8 | スの向こう側に松葉杖をついた三砂が |
9 | いる。 |
10 | |
33P | ⑳道 |
2 | グラウンド脇の道。松葉杖をついた三 |
3 | 砂がグラウンドを見ている。 |
4 | 仙石の声「こぉらぁ! 中川! こんな所で |
5 | 何をしてんや!」 |
6 | 仙石、校門から走ってでてくる。 |
7 | 三砂「(悲鳴)」 |
8 | 三砂、急いで仙石から逃げる。 |
9 | 三砂、建物の影に隠れる。 |
10 | 仙石、三砂を見失い辺りを見回す。 |
34P | |
2 | ○21北山高校・体育教官室(夜) |
3 | 仙石が机に向かっている。机の上には |
4 | 障害者スポーツについての資料。 |
5 | 着信音。 |
6 | 仙石、携帯電話を取り出し耳にあてる。 |
7 | 仙石「あぁ、もしもし、おぉ久しぶり。どう |
8 | や。うん。うん」 |
9 | 仙石、資料を持ち上げて笑う。 |
10 | |
35P | ○22中川家・前 |
2 | 中川の表札。 |
3 | |
4 | ○23中川家・三砂の部屋 |
5 | 仙石、三砂の机の上の写真たてを手に |
6 | とる。ドアの側に立つ良子。 |
7 | 仙石壁の半紙を見る。〝目標 インタ |
8 | ーハイ優勝 中川三砂〟 |
9 | 仙石と良子が向き合う。 |
10 | 仙石「あいつにどこまで高い空までいけるん |
36P | か。見せてやりたいんです。お願いします」 |
2 | 仙石、頭をさげる。 |
3 | 良子「わかりました。よろしくお願いします」 |
4 | 良子、頭をさげる。 |
5 | |
6 | ○24心身障害リハビリセンタ・前 |
7 | 仙石、やってきて建物を見上げる。 |
8 | 仙石の肩には鞄。 |
9 | 三砂、松葉杖をついて歩いてきてベン |
10 | チに座る。 |
37P | 仙石の声「おい」 |
2 | 三砂、顔をあげる。 |
3 | 三砂「先生!」 |
4 | 仙石「今の時間はリハビリルームにいると聞 |
5 | いたんやが」 |
6 | 仙石、三砂をにらみつける。 |
7 | 三砂、眉をひそめる |
8 | 三砂「先生には関係ないやろ」 |
9 | 三砂、松葉杖で立ち上がる。 |
10 | 仙石「三日練習をサボったら、走られへんな |
38P | るぞ」 |
2 | 三砂、立ち止まる。 |
3 | 仙石「ほら、はよ戻れ」 |
4 | 仙石、三砂の前に回り込んで、手をひ |
5 | く。 |
6 | 三砂、動かない。 |
7 | 三砂「なんで」 |
8 | 仙石「は? 何言ってんねん」 |
9 | 三砂「やめてよ!」 |
10 | 三砂、仙石の手をふりほどく。 |
39P | 仙石「そうや、お前に話があるんやった」 |
2 | 仙石、肩にさげた鞄をあさる。 |
3 | 三砂、センタ内に歩いていく。 |
4 | 仙石「おい」 |
5 | 三砂、自動ドアの向こう側。 |
6 | 仙石、ため息をつく。 |
7 | |
8 | ○25同・診察室 |
9 | 三砂と安田浩介(55)が向き合ってい |
10 | る。安田、補聴器で三砂の心臓の音を |
40P | 聞く。 |
2 | 安田「はい。足は順調に回復しているね」 |
3 | 三砂、俯く。 |
4 | 安田「リハビリ、つらいかい?」 |
5 | 三砂「・・・・・・わからないです」 |
6 | 安田「サボっているんだって?」 |
7 | 三砂「・・・・・・」 |
8 | 安田「仮義足はあってるかい」 |
9 | 三砂「あまり使ってないので」 |
10 | 安田、三砂をじっと見る。 |
41P | 三砂、目をそらす。 |
2 | 安田「君は聞いた話と随分印象が違うね。優 |
3 | 秀なランナーだったんだって?」 |
4 | 三砂「え?」 |
5 | 安田「まぁ良い。楽しんできなさい」 |
6 | 安田、手元の問診表を書き込む。 |
7 | 三砂、訝しがりながら松葉杖を手にと |
8 | り、診察室から出ていく。 |
9 | |
10 | ○26同・廊下 |
42P | 三砂、松葉杖で廊下を重そうに歩く。 |
2 | 三砂「どうでも良いやん」 |
3 | 三砂、廊下の先をみる。 |
4 | 三砂「ランナーて」 |
5 | 階段がみえる。 |
6 | 三砂「いまさら」 |
7 | 三砂、左足をみて、頭をふる |
8 | 三砂「この足で? どうやって?」 |
9 | 三砂、冷笑を浮かべる。 |
10 | 階段にどんどんと近づいていく三砂。 |
43P | 三砂「こんな距離でさえままならんのに」 |
2 | 三砂、階段の手前で立ち止まる。 |
3 | 眼下に中二階の踊り場が見える。 |
4 | 三砂「あーあ」 |
5 | 床に落ちる松葉杖。 |
6 | 三砂、目をつぶり、倒れ込む。 |
7 | 仙石、背後からやってきて三砂の腕を |
8 | つかむ。 |
9 | 三砂、我にかえり捕まれた腕を見る。 |
10 | 三砂「せ、先生?」 |
44P | 仙石、鬼の形相。 |
2 | 仙石「中川! お前! 何やっとんじゃぁぁ!」 |
3 | 三砂「(悲鳴)びっくりした」 |
4 | 入所者達、仙石を見る。 |
5 | 仙石「あほ! びっくりしたのは俺じゃ!」 |
6 | 三砂「ちょ、先生、うるさい!」 |
7 | 仙石「なにぃ!」 |
8 | 仙石、あたりを見回し、せき込む。 |
9 | 仙石「まぁいい。許したる」 |
10 | 仙石、廊下のほうから車イスを出して |
45P | くる。 |
2 | 仙石「乗れ。ちょっと出るぞ」 |
3 | 三砂「はぁ?」 |
4 | 仙石「乗れ」 |
5 | 仙石、眉をひそめる。 |
6 | 三砂、おずおずと車イスに乗る。 |
7 | |
8 | ○27走る電車の中 |
9 | 車イスに乗る三砂。 |
10 | 三砂の車イスを押す仙石。 |
46P | 仙石、窓の外をみている。 |
2 | 三砂、仙石とは反対側の見ている。 |
3 | |
4 | ○28十和寺公園陸上競技場・前 |
5 | 斜面の多い土地。仙石、三砂の乗る車 |
6 | いすを押している。 |
7 | 大きな階段がある。 |
8 | 三砂、階段を見上げる。 |
9 | 三砂「せ、先生?」 |
10 | 仙石、手元の地図を見る。 |
47P | 仙石「この上やな」 |
2 | 三砂「え」 |
3 | 仙石、三砂の前にしゃがみ込み、肩を |
4 | 叩く。 |
5 | 仙石「乗れ!」 |
6 | 三砂、愕然とする。 |
7 | 三砂「無理です! 重いですって! まわり |
8 | 道しましょう!」 |
9 | 仙石「あかん! 時間がない! 乗れ!」 |
10 | 三砂、しぶしぶ仙石に負ぶさる。 |
48P | 仙石、立ち上がる。 |
2 | 仙石、三砂を負ぶって階段を上る。 |
3 | 仙石「重い」 |
4 | 三砂「だからいったじゃん」 |
5 | 三砂、ため息をつく。 |
6 | 重そうな仙石。 |
7 | きまりが悪そうに眉をひそめる三砂。 |
8 | 三砂「先生、もう良いです」 |
9 | 仙石「……」 |
10 | 三砂「この足じゃどうせ全国は行けん」 |
49P | 仙石「大丈夫や」 |
2 | 三砂の顔にみるみる怒りが広がる。 |
3 | 三砂「何言ってんですか!? 現実的に無理 |
4 | やん! 義足つけてちょっと歩けるようにな |
5 | ってもそれは! それは……」 |
6 | 三砂、顔を伏せる。 |
7 | 三砂「(涙声)今まで積み上げてきたもんも、 |
8 | 思いも無駄やったんですよ」 |
9 | 仙石、息が荒い。 |
10 | 仙石「(荒い息づかいで)今はつらいやろう |
50P | が。大丈夫や」 |
2 | 仙石、階段を上りきる。 |
3 | 三砂「先生――」 |
4 | ビストルの音。 |
5 | 階段の上〝十和寺公園 陸上競技場〟 |
6 | の石碑。 |
7 | |
8 | ○29同・トラック |
9 | 三戸直人(28)と選手Aと選手達、全 |
10 | 速力でトラックを駆けている。選手達 |
51P | の足は皆、義足。 |
2 | 仙石、トラック脇のベンチに三砂をお |
3 | ろす。仙石、三砂を伺い見る。 |
4 | 食い入るように選手達をみている三砂。 |
5 | 口角をあげる仙石。 |
6 | 三戸と選手A、すごい早さでデッドヒ |
7 | ートを繰り広げる。 |
8 | 三戸の膝から下にはめられている陸上 |
9 | 競技用の義足が大きくしなる。 |
10 | 三砂「競技用の義足」 |
52P | 仙石、うなづく。 |
2 | 仙石「カーボン製のバネのような作りで健常 |
3 | な選手とも勝負ができるらしい」 |
4 | 三砂「私には無理」 |
5 | 仙石「よく見ろ。きれいなフォームや。走っ |
6 | てる自分の姿をイメージするんや」 |
7 | 三砂、トラックを見る。 |
8 | |
9 | ○30(三砂のイメージ)同・トラック |
10 | 選手Aとデッドヒートを繰り広げる三 |
53P | 砂。三砂の足には陸上競技用の義足。 |
2 | 選手Aを押さえてゴールテープを切る。 |
3 | |
4 | ○31同・元のトラック |
5 | 三戸と選手Aと選手達、ゴール地点で |
6 | 息をついている。 |
7 | じっとトラックを見ている三砂。三砂 |
8 | のとなりに座る仙石。 |
9 | 仙石「大丈夫や」 |
10 | 三砂、仙石を見上げる。 |
54P | 仙石「お前は若い。体力もあるし、根性もあ |
2 | る」 |
3 | 三砂「・・・・・・」 |
4 | 仙石「今は目標を見失って、調子があがらん |
5 | だけや。お前ならいける。自分を信じろ」 |
6 | 目を見開く三砂。 |
7 | 三砂、うなずく。 |
8 | 三戸、歩いてくる。 |
9 | 三戸「お待たせしました」 |
10 | 仙石、手を挙げる。 |
55P | 仙石「おう。教え子の中川や」 |
2 | 三戸「お久しぶりです。彼女ですか?」 |
3 | 仙石「お前の先輩の三戸や」 |
4 | 三砂、唖然としながら三戸に会釈する。 |
5 | 三砂の目の前にたつ三戸。 |
6 | 三戸「中川さん。一つ質問。走りたいかい?」 |
7 | 三砂「……走りたいです」 |
8 | 三砂、真剣な顔で頷く。 |
9 | 仙石と三戸顔を見合わせて笑う。 |
10 | 三戸「じゃぁ話そ!」 |
56P | 仙石「よーし。じゃぁ車椅子とってきたるわ! |
2 | 待っとれ!」 |
3 | 仙石、駆け出して腰を押さえて四つん |
4 | 這いになる。 |
5 | 三砂「先生?」 |
6 | 仙石「……こ、腰が」 |
7 | 三砂「先生!」 |
8 | 三戸「(同時に)仙石先生!」 |
9 | 三砂と三戸、騒然とする。 |
10 | 空が青い。 |
57P | |
2 | ○32北山高校・前 |
3 | 校舎には〝祝 陸上部 インターハイ |
4 | 出場〟の垂れ幕がかかっている。 |
5 | 陸上部のかけ声が聞こえる。 |
6 | T.半年後 |
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8 | ○33同・グラウンド |
9 | 陸上部員達がグラウンドを走っている。 |
10 | 校庭の樹木に葉はなく、部員達の吐き |
58P | 出す息は白い。 |
2 | 仙石、体育教官室から出てくる。 |
3 | 仙石「陸上部! 集合!」 |
4 | 陸上部員達、集まる。 |
5 | 仙石「おい! 中川!」 |
6 | 三砂が走ってやってくる。その足は陸 |
7 | 上競技用の義足。 |
8 | 三砂「す、すみませ!」 |
9 | 仙石「今日から中川が部活動に参加する」 |
10 | 三砂「よろしくお願いします」 |
59P | 新田「知ってるよ!」 |
2 | 仙石「じゃぁ、タイムを計るぞ。スタート位 |
3 | 置につけ」 |
4 | 陸上部員達と三砂がスタートにつく。 |
5 | 仙石、笛を咥えてストップウォッチを |
6 | 構える。 |
7 | 三砂、クラウチングスタートのポーズ。 |
8 | 仙石「よーい」 |
9 | 仙石、笛をふく。 |
10 | 三砂、走り出す。 |
60P | |
2 | ○34中川家・三砂の部屋 |
3 | 陸上部員達の走る足音が聞こえる。 |
4 | 壁に半紙が貼られている。 |
5 | 半紙の文字、〝目標 パラリンピック |
6 | 金メダル〟。 |
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